全身麻酔薬
① 全身麻酔薬の特徴と臨床適用について述べよ。
② 全身麻酔薬の作用機序について述べよ。
③ 主な全身麻酔薬とその作用について述べよ。
① 全身麻酔薬の特徴と臨床適用
外科的手術に必須な全身麻酔の条件は睡眠(無意識)、鎮痛および筋弛緩(不動化)である。全身麻酔ではこれらを可逆的に、任意の時間だけ得られることが望まれる。静脈注射による静脈内麻酔と肺からの吸入による吸入麻酔が一般的である。初期には全身麻酔薬として笑気(亜酸化窒素)・エーテル・クロロホルムが用いられた。全身麻酔薬は中枢を非特異的に抑制するが、一様に抑制するわけではなく、下行性に進行し、大脳皮質→大脳基底核→小脳→脊髄→延髄の順に抑制する。麻酔深度には第Ⅰ期から第Ⅳ期まであり、手術適応期は第Ⅲ期の第2・3相である。麻酔深度が第Ⅳ期になると呼吸停止・血圧低下が起こり死に至るので、麻酔深度を的確に判断する必要がある。麻酔前投与薬には、抗不安薬・鎮静薬・鎮痛薬・副亣感神経遮断薬・制吐薬・筋弛緩薬などがある。
② 全身麻酔薬の作用機序
古くから多くの仮説が提唱されているが、実験証拠がありすべての現象を説明できるものはない。意識消失、鎮痛、運動・反射の抑制、記憶喪失などの作用強度や脳での作用点は個々の麻酔薬によって異なり、一般的な拮抗薬は存在しない。油/ガス分配係数と麻酔作用が相関を示すというリポイド説は、立体特異性が無く、麻酔作用を持つ分子構造の多様性、拮抗薬が無く、水溶性が高い分子の作用発現が遅いことなどが説明できる。酸化的リン酸化の阻害・ATPase活性の抑制によるとするエネルギー代謝・利用抑制説や、麻酔薬の標的は蛋白質でシナプス伝達に作用するという蛋白質説もある。GABAA受容体に作用し、グルタミン酸受容体のNMDA受容体やアセチルコリン受容体のニコチン受容体を抑制するなどの興奮性シナプス伝達の抑制によるとも考えられている。
③ 主な全身麻酔薬とその作用
全身麻酔薬には用量の増減が容易な吸入麻酔薬と即効性の静脈内麻酔薬がある。吸入麻酔薬には揮発性のハロタン・セボフルラン・イソフルラン、ガス性の亜酸化窒素(笑気)があり、静脈内麻酔薬にはプロポフォール・ケタミンがある。ハロタンは局所刺激性がないが、鎮痛作用が弱いので笑気と併用する。不整脈を誘発し、肝機能を抑制する。セボフルラン・イソフルランは導入・回復が速やかで、肝障害や不整脈誘発はハロタンより弱い。亜酸化窒素は強力な鎮痛作用を持つが、手術適応期になりにくいので他の全身麻酔薬と併用し、低酸素に注意する。プロポフォールは中枢神経におけるGABAA受容体に作用する。導入・回復が速やかで、術後嘔吐などの不快感が尐ない。麻酔の維持にオピオイドや笑気を併用し、血圧を低下させる作用がある。乳濁注射液なので凍結後は使用不可である。ケタミンはNMDA受容体拮抗薬として作用し、解離型麻酔薬とも呼ばれる。強い鎮痛作用を持ち、回復に時間がかかり、回復後も記憶喪失作用がある。乱用により麻薬指定がされている。
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