2013年3月19日火曜日

薬理について06(中枢神経系の神経伝達)


① グルタミン酸の中枢神経系における役割とその生合成・貯蔵・取り込みについて述べよ。
② グルタミン酸受容体について述べよ。
③ GABA(γ-アミノ酪酸)の役割とその分布・生合成・貯蔵・遊離・取り込みについて述べよ。
④ GABA 受容体について述べよ。
⑤ GABA は脳内の主要な抑制性神経伝達物質であり、GABAA 受容体は多くの中枢神経系薬物の作用点となっている。 GABAA 受容体に作用して臨床効果を発揮する薬物(群)を列挙し、薬理作用を説明せよ。また、共通の作用がありながら、薬理作用や臨床応用が大きく異なる理由について考察しなさい。
⑥ 以下の囲み記事はギャバ入り食品を説明した、あるインターネットサイトの文章(一部改変)である。著者が、抑制性神経と個体レベルでの鎮静を混同していることを含め、全体的に明らかに間違った内容となっている。以下の設問に答えなさい。


あなたはチョコレートを食べて、ホッとしたことはありませんか?それはチョコレートに含まれるギャバの効果です。ギャバ(GABA)の正式名はγアミノ酪酸といい、脳内で抑制系の神経伝達物質としてはたらいており、ギャバを摂ることでイライラなどをやわらげる効果があります。ストレスで痛めつけられた神経を鎮静してくれたり、精神の安定にも役立ちます。睡眠障害、自律神経の失調、うつ、更年期の抑うつや初老期の不眠といった症状の改善にも効果が期待されています。


(1)一つ一つの興奮性、抑制性神経の活動と個体レベルでの興奮、鎮静との関係について説明しなさい。
(2)経口摂取したGABA の脳内移行はほとんどないが、もし移行したとしたら、どのような症状が現れると考えられるか。また、そう考えた理由も述べなさい。
(3)うつ病患者で脳内GABA 濃度が上昇したときに起こることを予想しなさい。




①グルタミン酸の役割と生合成・貯蔵・取り込み

グルタミン酸は中枢神経系における主要な興奮性神経伝達物質であり、脳神経系の情報伝達・可塑性・形成に重要な役割を担っている。グルタミン酸はα-ケトグルタル酸・アスパラギン酸・グルタミンから生成される。グルタミン酸の生合成は前駆物質であるグルタミンの蓄積により一部調節され、さらに、最終産物により抑制性制御を受けている。生合成されたグルタミン酸は、ATP 依存性でプロトン勾配を利用する小胞グルタミン酸トランスポーター(VGLUT)によりシナプス小胞に取り込まれる。シナプス間隙に放出されたグルタミン酸は神経終末にそのまま取り込まれる以外に、グリア細胞に取り込まれ、グルタミンとなり遊離される。グルタミンは神経でグルタミン酸に変換される。細胞外のグルタミン酸濃度が長時間上昇すると傷害性を示す。興奮性神経細胞は高濃度のグルタミン酸を含むので、傷害を受けた細胞からグルタミン酸が遊離しさらに周囲の細胞を傷害させる。



② グルタミン酸受容体

グルタミン酸受容体にはイオンチャネル型と代謝型があり、イオンチャネル型はNon-NMDA型とNMDA型に分類される。Non-NMDA型はさらにAMPA型とKainate型に分類される。AMPA受容体はNa⁺・K⁺を通す非選択的陽イオンチャネルであり、一部はCa²⁺透過性を有し、速い興奮性神経伝達の大部分を担っている。NMDA受容体はNa⁺・K⁺・Ca²⁺非選択性イオンチャネルである。静止膜電位付近ではMg²⁺により抑制されているが、シナプス後膜が大きく脱分極するとMg²⁺による抑制が解除され活性化する。遅い興奮性神経伝達を担い、シナプス可塑性や神経回路構築に重要な役割を果たし、虚血などによる神経傷害にも関与している。NMDA受容体はグリシンやポリアミンにより増強され、フェンシクリジンやケタミン結合部位など多くの修飾物質が知られている。代謝型はイノシトールリン酸やG蛋白質と共役し、シナプスやグリア細胞に存在し、広範な作用を示す。


③ GABAの役割と分布・生合成・貯蔵・遊離・取り込み

GABAは興奮性伝達物質によるシナプス伝達を抑制する神経伝達物質として重要な役割を担い、多くの中枢抑制薬の作用点である。GABAは脳内に広く分布し、黒質・淡蒼球などに特に多い。末梢の膵ランゲルハンス島β細胞などにも分布し、末梢では血圧低下作用などを持つ。GABAはグルタミン酸からGAD(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)により合成される。ビタミンB6はGADの補酵素であり、ビタミンB6欠乏によってGABAは減尐する。GABAは小胞GABAトランスポーター(VGAT)により神経終末の扁平なシナプス小胞内に貯蔵される。GABAは神経インパルスによってCa²⁺依存性にシナプス間隙に遊離されるが、開口分泌によらない遊離が多い。シナプス間隙に遊離されたGABAは神経終末およびグリア細胞へ急速に取り込まれる。


④ GABA受容体

GABA受容体にはGABAA受容体・GABAB受容体・GABAC受容体がある。GABAA受容体はCl⁻チャネルと共役し、GABAが結合するとCl⁻が流入して神経細胞が過分極し、興奮性入力による脱分極効果が抑制される。ベンゾジアゼピンやバルビツール酸により増強され、ビククリンやピクロトキシンにより抑制され、また、てんかんや痙攣発現と関係がある。GABAB受容体は主にシナプス前終末に存在し、K⁺チャネルの活性化による過分極を引き起こし、GABAをはじめとする多くの神経伝達物質の遊離を抑制する。作用薬はバクロフェンである。

⑤ GABAA受容体に作用する薬物

●ベンゾジアゼピン
GABAA受容体に作用し、Clチャネルの開口頻度を増強することで、Cl⁻透過性を高めて過分極させ、活動電位の発生を抑制する。抗不安薬・鎮静薬・催眠薬・抗けいれん薬・筋弛緩薬として使用されている。

●バルビツール酸
GABAA受容体に結合しClチャネルを開口することですることで抑制性神経機能を亢進し、かつGlu受容体も弱く抑制することで興奮を抑制する。鎮静薬・催眠薬・抗けいれん薬・静脈麻酔薬として使用されている。

●アルコール
抑制性GABAA受容体の作用を増強し興奮性NMDA型Glu受容体を抑制する。中枢神経細胞の感受性の違いに応じて作用は下行性に進行するが、中枢神経系の脱抑制による興奮期の持続が全身麻酔薬よりも長い。また、手術期から延髄麻痺に移行するまでの期間は逆に全身麻酔薬より短く、速やかに呼吸機能,心拍機能を停止させて死に至らしめる。



●全身麻酔薬
エンフルランやプロポフォールはGABAA 受容体を活性化することで麻酔作用を発現する。全ての全身麻酔薬がGABAA 受容体に作用するわけではない。


これらはすべて同じGABAA 受容体に作用する。このうち、アルコールと揮発性麻酔薬は作用部位も同一だが、これとベンゾジアゼピン、バルビツール酸の作用点はそれぞれ異なる。また、それぞれ受容体との親和強度も異なる。これらの要因から、それぞれの薬物のCl チャネルの開口作用の有無,開口頻度の増強ないし開口時間の延長の程度に差異が生じることで、薬理作用や臨床応用は異なると考えられる。また、NMDA 型Glu 受容体等、GABAA 以外の受容体への作用の有無も関係すると考えられる。



⑥ GABA 神経系

(1)興奮性神経の活動は、主に興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸を伝達物質として行われる活動で、電位の変化による興奮が伝達される。グルタミン酸の受容体には、イオンチャネル型と代謝型の2 種類がある。これに対して、抑制性神経の活動は、主にGABA を神経伝達物質として、神経細胞の電位変化を抑えて、興奮の伝達を抑制する。GABA 受容体には、GABAA、GABAB の2 種類がある。GABAA はCl チャネルと共役していて、細胞の電位変化を抑え、神経伝達物質の遊離を抑制する。GABAB は、K チャネル活性化による過分極を引き起こす。また、個体レベルでの興奮・鎮静は亣感神経と副亣感神経の拮抗によって制御されている。そのため、興奮性の活動を行っている神経と、抑制系によって抑制される神経がいずれに属するかによって、個体レベルでの
興奮と鎮静が決まっている。

(2)GABA は、神経細胞の電位変化を抑制したり、過分極を引き起こしたりすることで、神経細胞の興奮伝達を妨げる。経口由来のGABA が移行して濃度が高くなると、神経系の活動が抑制されることに加えて、GABA 受容体作動薬に、催眠・鎮静効果があることから、催眠・鎮静効果があると考えられる。

(3)ノルアドレナリンやセロトニンなどの脳内モノアミンの低下がうつ病の原因であると考えるモノアミン仮説が正しいとすると、神経伝達物質の遊離・神経細胞の興奮伝達を抑制するGABA は、うつ病の症状を重くすると考えられる。







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