2013年3月19日火曜日

薬理について14(パーキンソン病治療薬)


① パーキンソン病の特徴と症状およびパーキンソン病とドパミン神経系の異常について説明し、その原因を考察しなさい。
② MPTPについて説明せよ。
③ パーキンソン病治療薬を作用機序により分類して説明せよ。
④ セロトニンやドパミンが興奮性神経伝達物質と呼ばれない理由について説明せよ。
⑤ ドパミン神経系について以下の設問に答えなさい。
(1) ドパミンの化学構造式を書きなさい。
(2) 脳内のドパミン作動性神経系の種類と役割および臨床応用について説明せよ。
(3) ドパミン受容体の作動薬と拮抗薬の薬理作用および臨床応用について説明せよ。
(4) ドパミンの生合成経路および神経終末から遊離されたドパミンがたどる運命を説明せよ。



① パーキンソン病の特徴と症状およびパーキンソン病とドパミン神経系の異常とその原因

パーキンソン病はパーキンソン医師により報告された原因不明の進行性運動機能障害であり、静止時の振戦、筋硬直、無動、姿勢反射障害の四大症状が見られる。病理所見では、中脳の黒質緻密部のドパミン作動性神経系の変性・脱落に加えて、投射先の線条体・淡蒼球でのドパミン・ドパミントランスポーター量の低下も低下し形態が変化しLewy小体が出現している。線条体から黒質網状層・淡蒼球内節までの経路は、直接経路と間接経路との2つに分けられる。直接経路は、D1受容体を介した経路で、視床の脱抑制に作用して、運動を促進する。これに対して、間接経路はD2受容体を介した経路で、視床を抑制することで、運動を抑制する。パーキンソン病では、ドパミン作動性神経系が減弱してGABA神経系が亢進することで、視床が抑制されていると考えられる。ドパミン神経系の異常の原因は、TIQ(テトラヒドロイソキノロン)などの神経毒や、MAO-Bにより過酸化水素が生成されることからフリーラジカルが関与していると考えられている。


② MPTP(1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine)

アメリカの若者が麻薬ペチジンを密造する過程で、誤ってMPTPを合成してしまって不純物として混入し、このMPTP入り麻薬を注射したところ、重篤なパーキンソン様症状を発現した。これは、MPTPが脳内移行後グリア細胞のモノアミン酸化酵素(MAO-B)によってMPP+に変換され、ドパミン神経に取り込まれて毒性を発揮したためである。このことから、パーキンソン病は生体内にMPTP様の黒質-線条体ドパミン神経を選択的に障害する内因性または外因性神経毒が蓄積することで生じるというドパミン神経毒説が生まれた。


③ パーキンソン病治療薬の作用機序による分類

パーキンソン病の治療薬は、主にドパミン作動性神経系を亢進するものである。レボドパはドパミンの前駆体で、ドパミンと違って血液脳関門を通ることができる。最初の数年は、症状全般、特に運動緩徐に有効であるが、その効果は徐々に減弱する。カルビドパと合わせて服用しないと末梢作用を引き起こし、悪心・嘔吐、不整脈などが副作用となる。多くの患者に有効だが、長期使用によりwearing off現象やdelayed on現象、on and off現象が現れる。カルビドパは、血液脳関門を通らないL-アミノ酸脱炭酸酵素阻害薬で、末梢でのレボドパ代謝を抑制し、脳内濃度を高めることができる。末梢の副作用は抑制できるが、中枢への副作用は増加する。ブロモクリプチンはD2受容体の選択的作動薬で、レボドパ投与時に効果が減弱したときに併用する。プラミペキソールはD3受容体の選択的作動薬で、神経保護作用があり、単独で使用するか、レボドパと併用する。このブロモクリプチンとプラミペキソールは、症状が進行し、ドパミン作動性神経が著しく変性・脱落している患者に使用する。セレギリンはMAO-Bを阻害して、ドパミンの代謝を抑制する。副作用には悪心・嘔吐、肝障害などがある。ドロキシドパは、脳内でノルアドレナリンとなる。パーキンソン病の症状が進行すると、ノルアドレナリンも減尐する。すくみ現象や無動に有効で、副作用には悪性症候群・白血球減尐などがある。アマンタジンは、ドパミンの遊離を増大し、再取り込みを抑制する。副作用には不眠、うつなどがあり、ドパミン作動性神経がある程度残存している患者に有効である。トリヘキシフェニジルは、抗コリン薬である。ドパミン系薬の効果のない抗精神病薬による錐体外路系障害に有効である。副作用は口渇・便秘などの末梢性コリン作用である。


④ セロトニンやドパミンが興奮性神経伝達物質と呼ばれない理由

セロトニン・ドパミン作動性神経系はいずれも、神経伝達を直接担うのではなく、イオンチャネルの開き具合などを調節する調節系としてはたらくから。


⑤ ドパミン神経系



(1)

(2)
●報酬系
中脳の腹側被蓋野(VTA)から大脳皮質や側坐核に投射するドパミン神経系。欲求が満たされた時に活性化し、快感を与える。覚せい剤は、この報酬系のシナプス前終末からのドパミン放出を促進,かつ再取り込みを阻害することでドパミン過剰を引き起こし、薬物中毒を引き起こす。またドパミン仮説によれば、統合失調症陽性症状は中脳辺縁系(腹側被蓋野-側坐核)でのドパミン過剰が関与しているとされる。
●黒質-線条体路
黒質緻密部から線条体に投射するドパミン神経系。線条体から出力されるGABA神経を抑制する。パーキンソン病では、線条体で放出されるドパミンが不足し、相対的にAChによる作用が高まるためにGABA神経系機能が亢進することによって生じるとされる。


(3)
作動薬…ブロモクリプチンはドパミンD2受容体選択的アゴニストで、ドパミン神経系を賦活することで錐体外路症状を改善する、パーキンソン病治療薬である。
拮抗薬…ハロペリドールは中脳辺縁系のドパミンD2受容体を選択的に遮断することで、妄想,幻覚といった陽性症状を改善する、統合失調症治療薬である。


(4)
神経終末に能動輸送で取り込まれたチロシンは細胞質でチロシン水酸化酵素によりドーパーに変換される。チロシン水酸化酵素が全体の律速段階である。その後、ドーパーはL-アミノ酸脱炭酸酵素によりドパミンまで変換され、小胞内に取り込まれる。ドパミン神経系にはノルアドレナリン神経系とは異なりドパミンヒドロキシラーゼが含まれていないので、小胞内では変換されない。この過程はチロシン水酸化酵素の活性や量の調節により制御されている。遊離されたドパミンはドパミントランスポーターにより神経終末に再取り込みされるか、MAOやCOMTにより代謝されHVAに変換される。


⑥ 薬理作用・臨床適用・副作用
J:レボドパ
血液脳関門を通過後、脳内でドパミンに変換されることで、抗パーキンソン作用を発現する。臨床的には、パーキンソン病治療薬として血液脳関門を通らないL-アミノ酸脱炭酸酵素阻害薬であるカルビドパと併用する。長期服用によって、①On-off現象(症状の突然の増悪)②Wearing-off(薬効持続時間が短縮)③delayed on現象(効果発現が遅延)④不随意運動(ジスキネジア)といった副作用が見られる。また、体内に取り込まれたレボドパのうち95%以上は末梢で代謝を受けドパミンになり、さらに一部NAやアドレナリンに変換されて生理活性を現し、副作用を生じる。具体的には、悪心,嘔吐,食欲不振,起立性低血圧,不整脈,頻脈,不眠,幻覚など。L-アミノ酸脱炭酸酵素阻害薬と同時併用せずに単剤で使用すると、副作用は顕著になる。























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