2013年3月19日火曜日

薬理について15(痛覚と麻薬性鎮痛薬)


① 痛覚のユニークな特徴と痛みの部位による分類について説明せよ。
② 痛みの受容と痛覚過敏について説明せよ。
③ ある種の薬が生体に著効を示すことから、生体内に同様の物質や受容体が存在することが明らかになることがある。中枢神経系における例を挙げ、説明せよ。
④ モルヒネの鎮痛作用機序・臨床適用・副作用について説明せよ。
⑤ モルヒネ以外の麻薬性鎮痛薬について説明せよ。



① 痛覚のユニークな特徴と痛みの部位による分類

痛覚は生命維持に必須であり、慣れや順応がなくむしろ閾値が下がって痛覚過敏になることがある・中枢性の痛覚抑制システムが存在する・心臓の痛みを上腕の痛みと誤認知したり、因頭神経の刺激をこめかみの痛みと誤認知したり(アイスクリーム頭痛)と、内臓や深部組織の痛みが体表に放散して生じる関連痛がある・疼痛の原因が除去されても痛みが残ることがある、などのユニークな特徴を持つ。痛みは部位により、体表の痛みで鋭く短い一次性疼痛と遅く持続性の二次性疼痛がある表在痛、筋・関節などの鈍くうずくような痛みで局在は不明瞭な深部痛、平滑筋の強縮が原因の内臓痛、頭蓋血管の過拡張や炎症関連発痛物質により血管周囲の知覚神経が刺激されることにより起こる頭痛に分類される。痛みは本来、生体に対する警告系としての機能を果たしているが、過剰で持続的な痛みは除去しなければならない。


② 痛みの受容と痛覚過敏

痛みを生じる侵害刺激は知覚神経の自由終末である侵害受容器によって受容される。侵害受容器は機械・温度・化学刺激なども受容する。侵害刺激がある閾値を越えると痛覚として伝えられ、受容器の放出した神経伝達物質が神経細胞のシナプスに受容された後、この刺激がマスト細胞に伝えられると、マスト細胞がヒスタミンを放出して再び神経細胞のシナプスに受容される。このように痛覚には増幅のメカニズムがある。一次侵害求心線維にはC線維やAδ線維があり、脊髄後角の神経に投射し、痛覚伝導路としては脊髄視床路がある。C線維はカプサイシンの作用するV1R・AMPA・NMDA・GABAAなどの受容体を持ち、神経伝達物質としてサブスタンスPとグルタミン酸を使用している。Aδ線維は神経伝達物質としてグルタミン酸を使用している。炎症などにより痛覚閾値が低下すると痛覚過敏となる。プロスタグランジンやロイコトリエンは侵害受容器に直接作用しないが感作させ、炎症部位でのインターロイキン産生やNGFも痛覚過敏に関与している。非侵害性の痛み以外の刺激で痛みの感覚が出るアロジニアは治療が難しい。



③ オピオイド受容体とオピオイドペプチド

米国南北戦争で負傷した兵士にモルヒネを大量に投与し、モルヒネ依存が社会問題になり、依存のない数多くの鎮痛薬が作られた。それらには立体特異性が存在し、構造の一部を変換することにより拮抗作用を示す化合物が合成された。こうした事実から、1972年頃、薬物受容体の最初の概念が導入され、内因性モルヒネ様物質の発見へとつながった。
オピオイド受容体はGPCRで、Kチャネルを活性化しCaチャネルを抑制する。オピオイド受容体には、鎮痛・鎮咳・縮瞳・多幸感などに関わるμ受容体、弱い鎮痛・依存性に関わるδ受容体、鎮痛・多幸感・消化管運動抑制に関わるκ受容体がある。初めて発見された内因性のオピオイドペプチドはメチオニンエンケファリンおよびロイシンエンケファリンである。これらは主にδ受容体に作用する。他のオピオイドペプチドには主にκ受容体に作用するダイノルフィンA、μ・δ受容体に作用するβ-エンドルフィン、オーファン受容体に作用するノイセプチンがある。


④ モルヒネの鎮痛作用機序

モルヒネは運動中枢や知覚にほとんど影響を与えない用量で痛覚求心路を選択的に遮断し強力な鎮痛作用を示す。中脳水道周囲灰白質,延髄傍巨大細胞網様核に作用し、脊髄後角への下行性痛覚抑制経路の活動を亢進する。また、一次知覚神経C線維の侵害受容器を過分極させることで痛みの入力を阻害する。さらに、脊髄後角に作用し、一次知覚神経からの伝達物質遊離の抑制(シナプス前抑制)と、二次知覚神経の活動抑制(シナプス後抑制)によって、痛みの伝達を阻害する。腸管への作用でAChの遊離が抑制され、消化管運動が抑制し、胃液・胆汁・膵液の分泌も抑制するため止瀉作用がある。鎮咳作用があり、縮瞳を起こす。これらの作用は、オピオイド受容体の主にμ受容体への結合を介する。μ受容体に結合すると、Ca2+チャネルの開口が抑制されて神経伝達物質のグルタミン酸やサブスタンスPの放出量が減尐する。また、K+チャネルの開口が促進され、K+が細胞外に流出し、膜電位が過分極する。長期投与は耐性や依存性の発現が問題になるため、癌性疼痛、術後痛痛、心筋梗塞疼痛に臨床適用されている。延髄の化学受容器引金帯(CTZ)のD2受容体を刺激することで嘔吐中枢に情報が伝わり、悪心・嘔吐を起こし、延髄呼吸中枢を抑制し呼吸抑制を生じるなどの副作用がある。


⑤ モルヒネ以外の麻薬性鎮痛薬

リン酸コデインの鎮痛作用はモルヒネの1/6だが、鎮咳作用は強く鎮咳薬としても使用されている。腸管運動抑制が軽度で小児にも適応でき、依存性形成の可能性は低い。フェンタニルはμ受容体作動薬で、モルヒネの約100倍の鎮痛作用を持ち、脂溶性が高く経皮投与が可能である。持続時間はモルヒネより短い。メサドンはμ受容体作動薬で、ラセミ体ではモルヒネと同程度の鎮痛作用を持つ。モルヒネ慢性中毒の置換療法に使用され、弱いNMDA受容体拮抗作用がある。ブプレノルフィンはμおよびκ受容体部分的作動薬で、強い鎮痛作用を持つ。術後や癌の鎮痛に筋注または坐剤を投与する。弱い依存性がある。ナロキソンはオピオイド受容体拮抗薬(μが強い)で、麻薬による呼吸抑制および覚醒遅延に拮抗する。ナロキソン自身には呼吸抑制作用、瞳孔縮小作用、鎮静・鎮痛作用はない。


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