2015年1月24日土曜日

中枢興奮薬・覚醒剤・薬物依存

中枢興奮薬・覚醒剤・薬物依存


① キサンチン誘導体について説明せよ。
② ニコチンと喫煙について説明せよ。
③ 覚醒剤を使用してはいけない薬理学的な理由について説明せよ。
④ 覚醒剤以外の乱用薬物について説明せよ。
⑤ 薬物乱用が若年層で増加している理由およびその対処法を考察しなさい。
大麻使用や所持の犯罪が増加している原因について説明せよ。
⑥ 次の薬物の薬理作用・臨床適用・副作用について説明せよ。





① キサンチン誘導体

キサンチン誘導体であるカフェイン、テオフィリン、テオブロミンは大脳皮質や延髄を興奮させ、呼吸抑制改善や疲労感の低下や思考力の回復をもたらす。これらの作用はホスホジエステラーゼ(PDE)阻害によるcAMP 増加、アデノシン受容体拮抗(A1 にはテオフィリンが拮抗し、A2a にはカフェインが拮抗する)や細胞内貯蔵Ca²⁺の遊離促進作用による神経伝達の亢進によりもたらされる。カフェインは中枢作用が強く、弱い身体的依存性があり、中止により傾眠・イライラ感・頭痛が起こる。また、テオフィリンやテオブロミンは末梢作用が強く、心臓促進・利尿作用・気管支拡張作用がある。

② ニコチンと喫煙

ニコチンは中枢と末梢のアセチルコリンニコチン受容体に対するさまざまな薬理作用と副作用を持つ。多幸感は得られないが依存性があり、側坐核でドパミンを遊離させ、連用中止でイライラ感・不安などの離脱症状が起こる。禁煙補助としてニコチンガムやニコチンパッチおよびニコチン受容体部分活性薬が使用される。また、ニコチンは認知症やアルツハイマー病に効果があると考えられている。先進国では教育により喫煙率が低下していて、日本でも喫煙率は年々低下しているが、日本では若い女性の喫煙率は横ばいかむしろ上昇傾向で、未成年者の喫煙が相変わらず多い。喫煙への嗜癖はアルコールやヘロインよりも高く、吸入後にすぐに効果が現れるので、強化されやすく、吐き気やめまいなどの即時効果には喫煙継続により強い耐性ができる。喫煙と発ガン率は相関関係にあり、呼吸器系・循環器系・消化器系などの疾患のリスクファクターとなる。また、胎児への影響や受動喫煙の問題も深刻となっている。



③ 覚醒剤を使用してはいけない薬理学的な理由

アンフェタミンやメタンフェタミンなどの覚醒剤は、報酬系とよばれる腹側被蓋野から側坐核に投射するドパミン神経系の、シナプス前終末からのモノアミン放出を促進し,かつMAOやモノアミントランスポーターを阻害することでモノアミンの再取り込みを阻害して、ドパミン遊離を増大し、覚醒、疲労感減尐,気分高揚,多幸感,食欲減退などの薬理作用を発現する。この作用を期待して反復使用するうちに、多幸感,陶酔感などの作用には耐性が形成される一方、依存症となる。ひとたび依存が形成されると、脳機能に不可逆的な障害が生じ、統合失調症様の幻覚,妄想,錯乱などの症状が発現する。これらの症状は投与回数に伴って逆耐性を形成し、症状はさらに強まる。また使用を中止しても、脳は不可逆的な障害を受け、何らかの刺激によって突然症状が再燃し(フラッシュバック)、一生続くとされる。このように薬理学的作用から見ても、人体への影響は大きく、従って覚せい剤を使用してはならない。


④ 覚醒剤以外の乱用薬物

局所麻酔薬であるコカインはモノアミンの取り込みを阻害し、高揚感・疲労感の低下などの中枢興奮作用を示し、強い精神依存を引き起こす。逆耐性が生じ、同量の薬物に対する反応は次第に増強する。大麻は煙草をマリファナ、樹脂をハッシシと呼び、大麻にはTHCを始めとする80種類以上のカンナビノイドが含まれ、カンナビノイド受容体(CB1)に作用する。内因性物質としてアナンダミドや2-AGがあり、カンナビノイド受容体は海馬や皮質など脳内や末梢に幅広く分布し、シナプスでは前シナプスにCB1受容体が存在し負のフィードバックをもたらしている。大麻により短期記憶障害や複雑な作業の実施能力低下などの症状が現れ、長期使用により、呼吸機能低下やカタレプシーなどの作用を示す。依存性は低く、離脱症状を呈することは稀であるが、endpointがなく安全ではない。5-HT2受容体を遮断し5-HT1A,5-HT1C受容体に作用するLSD(リセルグ酸)やNMDA受容体拮抗作用をもつフェンサイクリジン(PCP)は幻覚を発現する。LSDはフラッシュバックを起こしやすい。その他、有機溶媒などさまざまな薬物が乱用されている。


⑤ 薬物乱用

☆簡単に手に入る、身近になり罪悪感が低下→取り締まりの強化。特にネット上
☆「大麻はたばこより中毒性が低く、酒より安全」等の誤った情報、ないし無知 、正確な知識の不足
→学校での教育の徹底。手を染める時期と重なり、有効。
☆倫理観の欠如→社会全体の啓発
☆やせ薬など、別の形態として使用→信頼性のない薬には十分注意する
☆周囲の無関心
☆犯罪組織の利益源となる(売る側の立場)←依存性
☆DDSの改良により加熱吸入など簡単に摂取できるようになった
☆「自分の健康は自分で守る」という意識が大切



⑥ 薬理作用・臨床適用・副作用

B:カフェイン

大脳皮質や延髄中枢の興奮を起こし、アデノシン受容体拮抗作用による覚醒作用がある。またホスホジエステラーゼ阻害によって細胞内cAMPが増大する。この結果、心筋収縮力が増大,気管支拡張,胃酸分泌増大が起こる。また、腎血管が拡張することで、糸球体濾過量が増大し,尿細管再吸収が減尐するため、利尿が起こる。鎮痛目的として、頭痛薬や風邪薬に配合される。副作用としては、弱い依存性・不眠・精神興奮・感情障害・骨格筋緊張・振戦・頻脈・呼吸促進があり、禁断することで傾眠・イライラ感・頭痛が起こる。

F:メタンフェタミン

報酬系のドパミン神経系への作用によって、ノルアドレナリンやドパミンを遊離し、モノアミントランスポーターを阻害して、モノアミンの再取り込みを阻害する。また、モノアミンオキシダーゼ(MAO)阻害によって、モノアミンの分解を阻害する。これらの作用により、シナプス間隙モノアミン濃度を高め、強い亣感神経興奮作用と中枢興奮作用を発現する。ナルコレプシーやうつ病などが適応症であるが、治療目的ではほとんど使用されない。覚醒剤であり、依存性が強く、人体に大きな影響がある。

H: MDMA

上記メタンフェタミンでの作用に加え、シナプス間隙のセロトニン量をとくに増大することで、多幸感などの作用を発現する。ナルコレプシーに対してのみ臨床適用され、うつ病への処方は廃止された。アメリカではADHD (注意欠陥・多動障害)にも使用される。習慣性・ドパミン増大による統合失調症様精神興奮症状・フラッシュバックなどの副作用がある。

2015年1月17日土曜日

非ステロイド性抗炎症薬・解熱鎮痛薬

非ステロイド性抗炎症薬・解熱鎮痛薬


① NSAIDおよびステロイド性抗炎症薬の薬理学的特徴について説明せよ。
② NSAID・解熱鎮痛薬についてその抗炎症作用を比較しながら説明せよ。


① NSAIDおよびステロイド性抗炎症薬の薬理学的特徴

NSAIDの殆どは、シクロオキシゲナーゼ(COX)の疎水性チャネルを封鎖することで、基質のアラキドン酸の結合を阻害し、プロスタグランジン(PG)やトロンボキサン(TX)産生を抑制する。PGは、末梢血流を増加させることで炎症症状の発現に関与したり、知覚神経終末にはたらいて痛覚過敏を起こしたり、発熱を招来したりする作用があるので、PG産出抑制によって消炎,鎮痛,解熱作用が発現する。一方PGは止血,胃粘膜保護,腎血流維持も司っているので、PG抑制によって出血傾向,胃潰瘍・消化器障害,腎障害などの副作用も現れる。なお、病的状態に関与するPGの生合成は誘導型のCOX-2が担うので、COX-2の選択性が高い薬は副作用が比較的小さい。しかし、COX-2選択的阻害薬は心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めることも分かっている。ステロイド性抗炎症薬は、細胞内で核内受容体と結合し、炎症性サイトカインやPG,各種インターロイキン(IL)の転写を抑制することで、結果的に抗炎症作用をもたらす。


② NSAID・解熱鎮痛薬

代表的な抗炎症薬であるアスピリンは小腸で加水分解されサリチル酸として吸収され、COXをアセチル化することにより阻害する。COX阻害とは異なる機序により抗リウマチ作用も持つ。消化器障害や腎・肝障害などの副作用があり、小児インフルエンザへの使用は禁忌である。アセトアミノフェンはCOX阻害が弱く、アスピリンに匹敵する解熱・鎮痛作用を持つが抗炎症作用はない。小児に対しても第一選択薬であり、解熱作用は中枢のCOX-3阻害によると考えられている。インドメタシンは強力な抗炎症作用(アスピリンの20~30倍)を持つ。関節リウマチや痛風発作にも有効だが、副作用も強い。主に外用として使用される。イブプロフェンはアスピリンとインドメタシンの中間の効力を持ち、胃腸障害などの副作用が比較的尐ない。類似化合物としてロキソプロフェン(ロキソニン)がある。ジクロフェナク(ボルタレン)は強力な解熱消炎鎮痛作用(抗炎症作用はインドメタシンよりも強い)を持つ。小児・高齢者には作用が強く出ることがあり、アナフィラキシー様ショックにも注意が必要である。主に坐剤として使用される。スリンダクはスルフィド体となって消炎鎮痛作用(抗炎症作用はインドメタシンの1/2以下)を示すプロドラッグである。プロドラッグであるため、胃腸障害や腎障害が尐ないため、腎機能低下時にも有効である。エトドラクはCOX-2選択的阻害作用が強く、胃腸障害や腎障害が尐ない。また、抗炎症作用の強さは、ジクロフェナク>インドメタシン>イブプロフェン>スリンダク>アスピリンの順である。

2015年1月10日土曜日

痛覚と麻薬性鎮痛薬

痛覚と麻薬性鎮痛薬


① 痛覚のユニークな特徴と痛みの部位による分類について説明せよ。
② 痛みの受容と痛覚過敏について説明せよ。
③ ある種の薬が生体に著効を示すことから、生体内に同様の物質や受容体が存在することが明らかになることがある。中枢神経系における例を挙げ、説明せよ。
④ モルヒネの鎮痛作用機序・臨床適用・副作用について説明せよ。
⑤ モルヒネ以外の麻薬性鎮痛薬について説明せよ。



① 痛覚のユニークな特徴と痛みの部位による分類

痛覚は生命維持に必須であり、慣れや順応がなくむしろ閾値が下がって痛覚過敏になることがある・中枢性の痛覚抑制システムが存在する・心臓の痛みを上腕の痛みと誤認知したり、因頭神経の刺激をこめかみの痛みと誤認知したり(アイスクリーム頭痛)と、内臓や深部組織の痛みが体表に放散して生じる関連痛がある・疼痛の原因が除去されても痛みが残ることがある、などのユニークな特徴を持つ。痛みは部位により、体表の痛みで鋭く短い一次性疼痛と遅く持続性の二次性疼痛がある表在痛、筋・関節などの鈍くうずくような痛みで局在は不明瞭な深部痛、平滑筋の強縮が原因の内臓痛、頭蓋血管の過拡張や炎症関連発痛物質により血管周囲の知覚神経が刺激されることにより起こる頭痛に分類される。痛みは本来、生体に対する警告系としての機能を果たしているが、過剰で持続的な痛みは除去しなければならない。


② 痛みの受容と痛覚過敏

痛みを生じる侵害刺激は知覚神経の自由終末である侵害受容器によって受容される。侵害受容器は機械・温度・化学刺激なども受容する。侵害刺激がある閾値を越えると痛覚として伝えられ、受容器の放出した神経伝達物質が神経細胞のシナプスに受容された後、この刺激がマスト細胞に伝えられると、マスト細胞がヒスタミンを放出して再び神経細胞のシナプスに受容される。このように痛覚には増幅のメカニズムがある。一次侵害求心線維にはC線維やAδ線維があり、脊髄後角の神経に投射し、痛覚伝導路としては脊髄視床路がある。C線維はカプサイシンの作用するV1R・AMPA・NMDA・GABAAなどの受容体を持ち、神経伝達物質としてサブスタンスPとグルタミン酸を使用している。Aδ線維は神経伝達物質としてグルタミン酸を使用している。炎症などにより痛覚閾値が低下すると痛覚過敏となる。プロスタグランジンやロイコトリエンは侵害受容器に直接作用しないが感作させ、炎症部位でのインターロイキン産生やNGFも痛覚過敏に関与している。非侵害性の痛み以外の刺激で痛みの感覚が出るアロジニアは治療が難しい。



③ オピオイド受容体とオピオイドペプチド

米国南北戦争で負傷した兵士にモルヒネを大量に投与し、モルヒネ依存が社会問題になり、依存のない数多くの鎮痛薬が作られた。それらには立体特異性が存在し、構造の一部を変換することにより拮抗作用を示す化合物が合成された。こうした事実から、1972年頃、薬物受容体の最初の概念が導入され、内因性モルヒネ様物質の発見へとつながった。
オピオイド受容体はGPCRで、Kチャネルを活性化しCaチャネルを抑制する。オピオイド受容体には、鎮痛・鎮咳・縮瞳・多幸感などに関わるμ受容体、弱い鎮痛・依存性に関わるδ受容体、鎮痛・多幸感・消化管運動抑制に関わるκ受容体がある。初めて発見された内因性のオピオイドペプチドはメチオニンエンケファリンおよびロイシンエンケファリンである。これらは主にδ受容体に作用する。他のオピオイドペプチドには主にκ受容体に作用するダイノルフィンA、μ・δ受容体に作用するβ-エンドルフィン、オーファン受容体に作用するノイセプチンがある。


④ モルヒネの鎮痛作用機序

モルヒネは運動中枢や知覚にほとんど影響を与えない用量で痛覚求心路を選択的に遮断し強力な鎮痛作用を示す。中脳水道周囲灰白質,延髄傍巨大細胞網様核に作用し、脊髄後角への下行性痛覚抑制経路の活動を亢進する。また、一次知覚神経C線維の侵害受容器を過分極させることで痛みの入力を阻害する。さらに、脊髄後角に作用し、一次知覚神経からの伝達物質遊離の抑制(シナプス前抑制)と、二次知覚神経の活動抑制(シナプス後抑制)によって、痛みの伝達を阻害する。腸管への作用でAChの遊離が抑制され、消化管運動が抑制し、胃液・胆汁・膵液の分泌も抑制するため止瀉作用がある。鎮咳作用があり、縮瞳を起こす。これらの作用は、オピオイド受容体の主にμ受容体への結合を介する。μ受容体に結合すると、Ca2+チャネルの開口が抑制されて神経伝達物質のグルタミン酸やサブスタンスPの放出量が減尐する。また、K+チャネルの開口が促進され、K+が細胞外に流出し、膜電位が過分極する。長期投与は耐性や依存性の発現が問題になるため、癌性疼痛、術後痛痛、心筋梗塞疼痛に臨床適用されている。延髄の化学受容器引金帯(CTZ)のD2受容体を刺激することで嘔吐中枢に情報が伝わり、悪心・嘔吐を起こし、延髄呼吸中枢を抑制し呼吸抑制を生じるなどの副作用がある。


⑤ モルヒネ以外の麻薬性鎮痛薬

リン酸コデインの鎮痛作用はモルヒネの1/6だが、鎮咳作用は強く鎮咳薬としても使用されている。腸管運動抑制が軽度で小児にも適応でき、依存性形成の可能性は低い。フェンタニルはμ受容体作動薬で、モルヒネの約100倍の鎮痛作用を持ち、脂溶性が高く経皮投与が可能である。持続時間はモルヒネより短い。メサドンはμ受容体作動薬で、ラセミ体ではモルヒネと同程度の鎮痛作用を持つ。モルヒネ慢性中毒の置換療法に使用され、弱いNMDA受容体拮抗作用がある。ブプレノルフィンはμおよびκ受容体部分的作動薬で、強い鎮痛作用を持つ。術後や癌の鎮痛に筋注または坐剤を投与する。弱い依存性がある。ナロキソンはオピオイド受容体拮抗薬(μが強い)で、麻薬による呼吸抑制および覚醒遅延に拮抗する。ナロキソン自身には呼吸抑制作用、瞳孔縮小作用、鎮静・鎮痛作用はない。

2015年1月3日土曜日

パーキンソン病治療薬

パーキンソン病治療薬


① パーキンソン病の特徴と症状およびパーキンソン病とドパミン神経系の異常について説明し、その原因を考察しなさい。
② MPTPについて説明せよ。
③ パーキンソン病治療薬を作用機序により分類して説明せよ。
④ セロトニンやドパミンが興奮性神経伝達物質と呼ばれない理由について説明せよ。
⑤ ドパミン神経系について以下の設問に答えなさい。
(1) ドパミンの化学構造式を書きなさい。
(2) 脳内のドパミン作動性神経系の種類と役割および臨床応用について説明せよ。
(3) ドパミン受容体の作動薬と拮抗薬の薬理作用および臨床応用について説明せよ。
(4) ドパミンの生合成経路および神経終末から遊離されたドパミンがたどる運命を説明せよ。



① パーキンソン病の特徴と症状およびパーキンソン病とドパミン神経系の異常とその原因

パーキンソン病はパーキンソン医師により報告された原因不明の進行性運動機能障害であり、静止時の振戦、筋硬直、無動、姿勢反射障害の四大症状が見られる。病理所見では、中脳の黒質緻密部のドパミン作動性神経系の変性・脱落に加えて、投射先の線条体・淡蒼球でのドパミン・ドパミントランスポーター量の低下も低下し形態が変化しLewy小体が出現している。線条体から黒質網状層・淡蒼球内節までの経路は、直接経路と間接経路との2つに分けられる。直接経路は、D1受容体を介した経路で、視床の脱抑制に作用して、運動を促進する。これに対して、間接経路はD2受容体を介した経路で、視床を抑制することで、運動を抑制する。パーキンソン病では、ドパミン作動性神経系が減弱してGABA神経系が亢進することで、視床が抑制されていると考えられる。ドパミン神経系の異常の原因は、TIQ(テトラヒドロイソキノロン)などの神経毒や、MAO-Bにより過酸化水素が生成されることからフリーラジカルが関与していると考えられている。


② MPTP(1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine)

アメリカの若者が麻薬ペチジンを密造する過程で、誤ってMPTPを合成してしまって不純物として混入し、このMPTP入り麻薬を注射したところ、重篤なパーキンソン様症状を発現した。これは、MPTPが脳内移行後グリア細胞のモノアミン酸化酵素(MAO-B)によってMPP+に変換され、ドパミン神経に取り込まれて毒性を発揮したためである。このことから、パーキンソン病は生体内にMPTP様の黒質-線条体ドパミン神経を選択的に障害する内因性または外因性神経毒が蓄積することで生じるというドパミン神経毒説が生まれた。


③ パーキンソン病治療薬の作用機序による分類

パーキンソン病の治療薬は、主にドパミン作動性神経系を亢進するものである。レボドパはドパミンの前駆体で、ドパミンと違って血液脳関門を通ることができる。最初の数年は、症状全般、特に運動緩徐に有効であるが、その効果は徐々に減弱する。カルビドパと合わせて服用しないと末梢作用を引き起こし、悪心・嘔吐、不整脈などが副作用となる。多くの患者に有効だが、長期使用によりwearing off現象やdelayed on現象、on and off現象が現れる。カルビドパは、血液脳関門を通らないL-アミノ酸脱炭酸酵素阻害薬で、末梢でのレボドパ代謝を抑制し、脳内濃度を高めることができる。末梢の副作用は抑制できるが、中枢への副作用は増加する。ブロモクリプチンはD2受容体の選択的作動薬で、レボドパ投与時に効果が減弱したときに併用する。プラミペキソールはD3受容体の選択的作動薬で、神経保護作用があり、単独で使用するか、レボドパと併用する。このブロモクリプチンとプラミペキソールは、症状が進行し、ドパミン作動性神経が著しく変性・脱落している患者に使用する。セレギリンはMAO-Bを阻害して、ドパミンの代謝を抑制する。副作用には悪心・嘔吐、肝障害などがある。ドロキシドパは、脳内でノルアドレナリンとなる。パーキンソン病の症状が進行すると、ノルアドレナリンも減尐する。すくみ現象や無動に有効で、副作用には悪性症候群・白血球減尐などがある。アマンタジンは、ドパミンの遊離を増大し、再取り込みを抑制する。副作用には不眠、うつなどがあり、ドパミン作動性神経がある程度残存している患者に有効である。トリヘキシフェニジルは、抗コリン薬である。ドパミン系薬の効果のない抗精神病薬による錐体外路系障害に有効である。副作用は口渇・便秘などの末梢性コリン作用である。


④ セロトニンやドパミンが興奮性神経伝達物質と呼ばれない理由

セロトニン・ドパミン作動性神経系はいずれも、神経伝達を直接担うのではなく、イオンチャネルの開き具合などを調節する調節系としてはたらくから。


⑤ ドパミン神経系



(1)

(2)
●報酬系
中脳の腹側被蓋野(VTA)から大脳皮質や側坐核に投射するドパミン神経系。欲求が満たされた時に活性化し、快感を与える。覚せい剤は、この報酬系のシナプス前終末からのドパミン放出を促進,かつ再取り込みを阻害することでドパミン過剰を引き起こし、薬物中毒を引き起こす。またドパミン仮説によれば、統合失調症陽性症状は中脳辺縁系(腹側被蓋野-側坐核)でのドパミン過剰が関与しているとされる。
●黒質-線条体路
黒質緻密部から線条体に投射するドパミン神経系。線条体から出力されるGABA神経を抑制する。パーキンソン病では、線条体で放出されるドパミンが不足し、相対的にAChによる作用が高まるためにGABA神経系機能が亢進することによって生じるとされる。


(3)
作動薬…ブロモクリプチンはドパミンD2受容体選択的アゴニストで、ドパミン神経系を賦活することで錐体外路症状を改善する、パーキンソン病治療薬である。
拮抗薬…ハロペリドールは中脳辺縁系のドパミンD2受容体を選択的に遮断することで、妄想,幻覚といった陽性症状を改善する、統合失調症治療薬である。


(4)
神経終末に能動輸送で取り込まれたチロシンは細胞質でチロシン水酸化酵素によりドーパーに変換される。チロシン水酸化酵素が全体の律速段階である。その後、ドーパーはL-アミノ酸脱炭酸酵素によりドパミンまで変換され、小胞内に取り込まれる。ドパミン神経系にはノルアドレナリン神経系とは異なりドパミンヒドロキシラーゼが含まれていないので、小胞内では変換されない。この過程はチロシン水酸化酵素の活性や量の調節により制御されている。遊離されたドパミンはドパミントランスポーターにより神経終末に再取り込みされるか、MAOやCOMTにより代謝されHVAに変換される。


⑥ 薬理作用・臨床適用・副作用
J:レボドパ
血液脳関門を通過後、脳内でドパミンに変換されることで、抗パーキンソン作用を発現する。臨床的には、パーキンソン病治療薬として血液脳関門を通らないL-アミノ酸脱炭酸酵素阻害薬であるカルビドパと併用する。長期服用によって、①On-off現象(症状の突然の増悪)②Wearing-off(薬効持続時間が短縮)③delayed on現象(効果発現が遅延)④不随意運動(ジスキネジア)といった副作用が見られる。また、体内に取り込まれたレボドパのうち95%以上は末梢で代謝を受けドパミンになり、さらに一部NAやアドレナリンに変換されて生理活性を現し、副作用を生じる。具体的には、悪心,嘔吐,食欲不振,起立性低血圧,不整脈,頻脈,不眠,幻覚など。L-アミノ酸脱炭酸酵素阻害薬と同時併用せずに単剤で使用すると、副作用は顕著になる。