2014年12月27日土曜日

統合失調症治療薬

統合失調症治療薬


① 統合失調症の特徴と症状について説明せよ。
② 統合失調症とドパミン神経系の異常について説明せよ。
③ 統合失調症治療薬を作用機序により分類して説明せよ。
④ 統合失調症に対するドパミンD2 受容体拮抗薬の有効性と限界について述べなさい。その限界に対処するために用いられるようになった治療薬を2 種類以上挙げ、知るところを述べなさい。




① 統合失調症の特徴と症状

統合失調症の症状は陽性症状と陰性症状,認知症状に大別される。陽性症状では、思考障害や妄想、幻覚が現れ、陰性症状では、思考・会話の貧困、感情平板化、意欲の低下、社会性欠如などが現れる。また、認知症状では、注意保持困難、精神運動機能の遅延、問題解決能力の低下などが現れる。思春期から青年期に発症し、数年かけて進行するが、本人の病識は低い。初期症状としては、周囲からの遊離、社会ルールの不履行、感情鈍麻などがある。統合失調症のクレペリンの分類によると、思春期から進行し感情鈍麻・意欲減退・思考の滅裂などが起こり、予後不良で人格荒廃へと進行する破瓜型、20歳前後での発症が多く興奮と昏迷が起きる緊張型、30~35歳で発症し妄想と幻覚が起こり体系化し確固とした妄想の世界を持つ妄想型がある。症状と遺伝子などの原因が1対1ではなく、遺伝的素因は脆弱因子である。


② 統合失調症とドパミン神経系の異常

陽性症状に有効な治療薬がほとんどドパミンD2受容体の遮断し、その効力と良く相関していることや、ドパミン神経系活性化薬が病状を悪化させたり、統合失調症様の症状を誘発したりすることから、脳内の中脳辺縁系(腹側被蓋野-側坐核)のドパミン神経系の異常興奮が統合失調症の病因であるとする、ドパミン仮説が提唱された。しかし、この仮説にはD2受容体拮抗薬が陰性症状に無効であることや、陽性症状でも無効な場合があること、作用発現までに数週間必要であることなどが問題点である。


③ 統合失調症治療薬の作用機序による分類

統合失調症の治療薬には、D2受容体拮抗薬、セロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)、MARTA、ドパミンD2受容体部分活性薬がある。D2受容体拮抗薬は、陽性症状に有効で、副作用には、錐体外路系障害、遅発性ジスキネジアなどが見られる。クロルプロマジンは、強い鎮静と抗不安作用があり、低温麻酔に使用され、5-HT2、α1、M1、H1受容体も遮断する。副作用には起立性低血圧、悪性症候群がある。ハロペリドール・スピペロンはD2受容体選択性が高く、強い主作用と副作用がある。副作用は悪性症候群である。SDAにはリスペリドンがあり、陰性症状や認知機能低下にも有効であり、錐体外路系障害は弱い。副作用は悪性症候群と遅発性ジスキネジアである。ブロナンセリンも使用され始めている。MARTAは、セロトニン・ドパミン拮抗薬に加えて多くの神経伝達物質受容体に作用するもので、オランザピンやクエチアピンがある。オランザピンは、D2、D4、5-HT2、H1、α1などの受容体拮抗作用を持ち、陰性症状にも有効である。副作用は高血糖、悪性症候群、遅発性ジスキネジアがある。クエチアピンは、D2よりも5-HT2に高親和性を示し、副作用はオランザピンと同様である。いずれも糖尿病には禁忌である。ドパミンD2受容体の部分活性薬にはアリピプラゾールがあり、ドパミンが過剰な部位では抑制し、不足部分では亢進する。陰性症状に有効だが、糖尿病や高血糖患者には注意が必要である。



④ 統合失調症に対するドパミンD2受容体拮抗薬の有効性と限界

ドパミンD2受容体拮抗薬は、中脳辺縁系のドパミンD2受容体を遮断することで、妄想,幻覚といった陽性症状を改善するので統合失調症に対して有効性を持つ。しかし、陰性症状には無効であり、また、中脳黒質経路にも作用することで錐体外路障害等の副作用を引き起こすなどの限界もある。その限界に対処するための治療薬としては、第二世代抗精神病薬のセロトニン・ドパミン拮抗薬がある。これは、D2受容体遮断に加えてセロトニン5-HT2A受容体を遮断することで、陽性症状とともに陰性症状も改善する。また、中脳辺縁系以外ではドパミン遊離を促進し、D2受容体拮抗薬に見られる錐体外路障害等の副作用が尐ない。また、多数の受容体に作用するMARTAもあり、陰性症状にも有効である。さらに、第三世代抗精神病薬とされるアリピプラゾールはドパミンD2受容体の部分活性薬であり、ドパミン過剰の中脳辺縁系ではアンタゴニストとしてはたらいてドパミンを抑制し陽性症状を改善する一方、ドパミン不足の中脳皮質系ではアゴニストとしてはたらいてドパミンを亢進し陰性症状を改善する。

2014年12月20日土曜日

抗不安薬

抗不安薬


① 神経症と心身症について説明せよ。
② 不安障害の症状・原因・治療と抗不安薬について説明せよ。
③ 自閉症・ADHDの症状・原因・治療について説明せよ。



① 神経症と心身症

神経症は心因性の精神障害で器質的な変化を伴わない病態のことである。主なものに不安神経症・ヒステリー・広場恐怖症などがある。不安・緊張・抑うつ・睡眠障害・摂食障害など主に自律神経系が関与する身体症状、不安発作が主症状である。一方、心身症は心理的(社会的)要因により身体臓器に器質的または機能的な障害が認められる病態のことである。ストレスによる胃・十二指腸潰瘍が代表例であり、他にも、循環器系・呼吸器系・内分泌系などに症状が現れることがある。



② 不安障害の症状・原因・治療と抗不安薬

不安障害にはパニック障害や強迫性障害などがある。パニック障害では数秒から数時間持続する前兆がなく急性の激しい恐怖を感じ、息切れ・不整脈・失神・不快感などのパニック発作が起きる。しばしば、先行不安を伴い、広場恐怖症を引き起こし、外出困難となる。遺伝的要因の他、帯状回・前頭前野・側頭葉前部がパニック発作に関与している。自律神経の活性化で発作が起き、GABAA 受容体の低下も原因の1 つではないかと考えられている。治療には5-HT1A 受容体を介するSSRI のパロキセチンやベンゾジアゼピンが使用される。強迫性障害は捨て去ることができない強迫観念と繰り返さずにはいられない行動を特徴とする。強迫は数唱・確認・清浄・逃避に分類され、強迫観念から通常の社会生活が困難になる。遺伝的要因や前頭葉・尾状核の活動増加や溶血性連鎖球菌感染症による自己免疫疾患などが原因だと考えられている。治療にはフルボキサミンなどのSSRI や三環系抗うつ薬のクロミプラミンなどが使用され、行動療法や帯状回切除も有効である。抗不安薬にはタンドスピロンなどの5-HT1A 受容体作動薬やアルプラゾラム・ロラゼパム・ジアゼパムなどのベンゾジアゼピン誘導体が使用される。タンドスピロンはcAMP を減尐させる5-HT1A 受容体の作動薬で鎮静・催眠・抗痙攣・筋弛緩作用はない。動物実験では著効を示し期待されたが、臨床効果はいまいちで、抗不安薬としての使用は副作用の尐ないSSRI に置き換えられつつある。


③ 自閉症・ADHD の症状・原因・治療

自閉症では、コミュニケーション能力の発達障害や想像力の欠如・他人の意図が理解できない・決まった手順や方法に執着するなどの症状がみられる。ほとんどのケースで精神遅滞が起こっているが、高い芸術性を発揮したりすることもある。遺伝的要因が高く、脳の発達障害が原因である。あまり有効な治療薬がなく、治療は行動療法が中心である。ADHD は注意欠陥・多動障害のことで集中することやじっとしていることができない。通常は学校の教室で最初に見つかり、しばしば、攻撃行動・行為障害・学習障害・低い自尊心などと関連している。遺伝的要因やドパミントランスポーターの増加や線条体-前頭前野領域の神経回路異常が原因である。治療には、ドパミン取り込み阻害薬やメチルフェニデートが有効である。メチルフェニデートはADHD やナルコレプシーに有効でアンフェタミン様作用がある。抗うつ薬としても処方されたが、乱用により適用が除外された。

2014年12月13日土曜日

抗うつ薬

抗うつ薬


① うつ病の特徴と症状について説明せよ。
② 薬物療法以外のうつ病の治療法と素質-ストレス仮説について説明せよ。
③ うつ病の生物学的病因についての初期の主要な学説は「モノアミン」学説であった。「モノアミン仮説」が提唱された根拠を説明し、うつ病との関連が特に深いと思われるモノアミンを2つあげなさい。
④ 三環系抗うつ薬とセロトニン選択的取り込み阻害薬の薬理作用と副作用について類似点および相違点を明確にしながら説明しなさい。
⑤ その他の抗うつ薬と抗うつ薬の長期的効果について説明せよ。
⑥ 抗躁病薬について説明せよ。
⑦ セロトニンの生合成と代謝について説明せよ。
⑧ 縫線核について説明せよ。




① うつ病の特徴と症状

うつ病は気分障害の中で一番多く、憂うつ状態が続き、感情の落ち込みだけではなく、日常生活に支障をきたすような身体症状を伴うことが多い。主な症状として、睡眠障害、疲労感、無力感、自殺念慮などがみられる。うつ病にはほとんどがうつ状態のみの単極型と躁状態とうつ状態を繰り返し途中に正常な寛解期のある双極型があり、メランコリー親和型性格や執着型性格の人がうつ病に罹りやすい。病相は単純ではなく、明確な診断基準による分類と治療が必要とされる。女性の方が男性より罹患しやすく、老年者の発症率が高く自殺の原因となることがあり、休む勇気と休ませる気配りが必要となる。原因としては急激な環境変化によるストレスや遺伝的素因、セロトニン・ノルアドレナリン神経系やHPA系の異常、脳由来神経栄養因子(BDNF)の減少などが考えられ、予防にはストレスを貯めない、規則正しい生活、定期的な運動、ポジティブシンキングなどが効果的である。


② 薬物療法以外のうつ病の治療法と素質-ストレス仮説

うつ病の治療法には薬物療法以外には電気痙攣療法(ECT)、断眠療法、高照度光療法、認知行動療法がある。ECTは全身麻酔下で筋弛緩薬を併用し、頭部への通電により人工的に全身痙攣を誘発させる治療法で、重症や薬物抵抗性のうつ病にも効果がある。断眠療法は全断眠やレム断眠が有効だが、やめるとすぐに元に戻ってしまう。高照度光療法は強い光を照射することで、季節性感情障害などに効果がある。認知行動療法は日常生活の行動パターン、考え方、クセなどを改め気分を変える。軽症に有効である。素質-ストレス仮説は遺伝的な素因などにより素質のある人が、発達早期にストレスに暴露されることで、ストレス反応の感受性が増大し、軽いストレッサーに対しても過敏に反応してしまうことがうつ病の原因だとする仮説である。これはストレスに対する個人差を説明でき、HPA系の過剰活動や海馬からの負のフィードバックの崩壊が原因だと考えられている。



③ モノアミン仮説

モノアミン仮説は、うつ病はシナプス間隙のモノアミンであるノルアドレナリン,セロトニンが欠乏することで生じるという説である。ドパミンは無関係である。モノアミンを枯渇させるレセルピンで高血圧治療中にうつ状態になって自殺した例があることやα2受容体作用薬であるメチルドパによってうつ状態が現れること、また、抗うつ薬である三環系抗うつ薬やモノアミン取り込み阻害薬、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO阻害薬)が、モノアミンの間隙濃度を高めることが根拠とされる。問題点としては、抗うつ薬が薬理作用を発現するまで数週間かかることやセロトニン・ノルアドレナリン選択的取り込み阻害薬の奏功が70%であることを説明できないことが挙げられる。


④ 三環系抗うつ薬とセロトニン選択的取り込み阻害薬の薬理作用と副作用

イミプラミン・アミトリプチンなどの三環系抗うつ薬、パロキセチン・フルボキサミンなどの選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)ともに、脳内モノアミンの神経終末への再取り込みを阻害し、モノアミンのシナプス間隙濃度を高めることで抗うつ作用を発現する。三環系抗うつ薬は、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害する効果もあるが、SSRIはセロトニン神経終末に存在するセロトニントランスポーターに特異的に作用するため、セロトニンに対して選択的に取り込み阻害をかけるが、三環系よりやや弱い。副作用に関しては、三環系抗うつ薬はSSRI等と違って選択性が低いために多く、抗コリン作用による口渇,便秘,排尿障害、抗α1作用による低血圧、Na+チャネル抑制による心臓の伝導抑制,抗H1作用による眠気、などがある。他方、SSRIはアドレナリン受容体やアセチルコリン受容体との親和性が低く、副作用が少ないが、肝薬物代謝酵素CYPファミリーを阻害するため、併用する薬の代謝に注意を要する。


⑤ その他の抗うつ薬と抗うつ薬の長期的効果

抗うつ薬には三環系抗うつ薬、SSRIの他に四環系抗うつ薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、モノアミン酸化酵素阻害薬がある。四環系抗うつ薬は抗コリン作用が少ない。ノルアドレナリンの取り込みを阻害するマプロチリンやα2・5-HT2・H1受容体を遮断するミアンセリンなどがある。SNRIにはミルナシプランがあり、セロトニンとノルアドレナリントランスポーターに特異的に作用して再取り込みを阻害する。副作用が尐なく安全であり、効果の発現が速い。モノアミン酸化酵素阻害薬はセロトニン・ノルアドレナリンの酸化酵素であるMAOAを阻害して遊離量を増加させる薬であるが、副作用が多く使用されていない。抗うつ薬は、長期的には自己受容体の強いdown regulationを引き起こすことで結果的に神経伝達効果を短期使用時より上昇させる。また、脳由来神経栄養因子(BDNF)の増加や、海馬における神経新生の増加ももたらす。しかし、抗うつ薬で起こる変化が病気で起こる変化の逆とは限らない。


⑥ 抗躁病薬

躁病は気分爽快・意欲亢進・多弁などだけではなく、社会的逸脱行動や家庭内不適応などの症状があり治療対象となる。炭酸リチウムが治療に用いられる。健常者には作用がなく、躁状態を改善し、予防的効果もある。多くの生理作用を持つが、薬理作用の本体は不明で多くの仮説が提唱されている。振戦、消化器症状、腎機能障害、強調運動障害などの副作用があり、リチウム中毒を起こすこともある。抗けいれん薬のカルバマゼピンも躁病治療に有効である。



⑦ セロトニンの生合成と代謝

セロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン、5-HT)はインドールアルキルアミンであり、ヒトの生体内セロトニンは胃腸管に90%が、血小板に8~9%が、1~2%が松果体・脳神経に存在している。生体内では、トリプトファンがトリプトファン水酸化酵素により5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)に変換され、さらに、5-HTP脱炭酸酵素によりセロトニンへと変換される。セロトニン生合成の律速段階はトリプトファン水酸化酵素であり、この酵素は酸素・基質・補酵素の量で調節され、最終産物によって調節されることはない。セロトニンの唯一の代謝経路はモノアミン酸化酵素(MAO)による脱アミノ反応である。


⑧ 縫線核

セロトニン神経系は縫線核から起始し、縫線核はセロトニン受容体の1種である5-HT1A受容体を持っている。この受容体は、アデニル酸シクラーゼ活性を抑制し、膜に過分極を起こさせることでシナプス伝達を抑制したり、自己受容体としてセロトニン神経活動を抑制したりする。

2014年12月6日土曜日

脂肪族アルコール

脂肪族アルコール


① アルコールの特徴とその体内動態について述べよ。
② アルコールの急性作用について述べよ。
③ アルコールの慢性作用とアルコール依存症の治療について述べよ。
④ 全身麻酔薬とエタノールの薬理作用(作用機序を含む)を比較せよ。




① アルコールの特徴と体内動態

アルコールは古来「酒」として親しまれ、両親媒性をもち医療用には消毒と溶媒として用いられる。GABAA受容体の亢進とNMDA受容体抑制により急性作用として中枢神経系を抑制する。また、慢性作用によりさまざまな障害を引き起こし、アルコール依存症は社会問題になっている。アルコールは消化管・咽頭粘膜・肺などからほぼ完全に吸収され、30分以内に血中濃度がピークに達する。主に肝臓でアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)によって酸化されアセトアルデヒドとなり、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)によって酢酸とアセチルCoAとなり、TCAサイクルで代謝される。ADH・ALDHには個人差・人種差が大きい。高濃度になるとMEOSやP-450などによっても代謝される。


② アルコールの急性作用

アルコールの急性作用の主なものとしてはGABAA受容体亢進とNMDA受容体抑制による中枢神経抑制作用である。抗不安・鎮静や認知・感覚・言語・運動機能の障害や判断力の低下・順行性記憶障害や利尿などを引き起こすが、これらには個人差がある。また、就眠は促進するが、睡眠後期でしばしば覚醒を引き起こすので睡眠薬には不適当である。循環器系への作用により末梢血管が拡張し、発赤・温感が起こる。消化器系の作用により最初は胃酸分泌を増加させる(食前酒)が、悪心・嘔吐を引き起こす。急性毒性には、呼吸抑制・血圧低下・体温低下などがある。


③ アルコールの慢性作用とアルコール依存症の治療

アルコールの慢性作用にはアルコール依存症があり、これはアルコールに対して身体的にも精神的にも依存する症状である。耐性を生じ、熟眠を困難にし、肝臓障害により脂肪変性・肝硬変を引き起こす。その他、消化管や循環器系に作用し、脳機能を低下させるなどさまざまな毒性をもたらす。アルコール依存症の治療には、ALDHの抑制によりアセトアルデヒドが蓄積することで、アルコールに対して非常に不快な副作用を起こす嫌酒薬を用いる。嫌酒薬にはジスルフィラムやシアナミドがあり、シアナミドの方がジスルフィラムよりALDHを特異的に阻害する。また、本人の自覚や家族と社会の支援も治療には重要である。


④ 全身麻酔薬とエタノールの薬理作用(作用機序を含む)の比較

全身麻酔薬は、主に抑制性GABAA受容体の作用増強ないし興奮性グルタミン酸受容体(とくにNMDA型)の抑制に起因する。アドレナリンα2受容体抑制、アセチルコリンニコチン受容体抑制,Kチャネル増強,Naチャネル抑制を介し作用を及ぼすものもある。中枢神経細胞の全身麻酔薬に対する作用は下行性に進行する。麻酔深度の第Ⅰ期は無痛覚期で、第Ⅱ期は興奮期である。第Ⅲ期は手術適応期であり、手術中はこの期の維持が必要となる。第Ⅳ期は延髄麻酔期で、呼吸停止・血圧低下・心停止し、死亡に至る。エタノールもGABAA受容体の亢進・NMDA受容体抑制・下行性に進行など作用機序はほぼ同一と考えられているが、中枢神経系の脱抑制による興奮期の持続が全身麻酔薬よりも長く、手術期へ移行するには血中エタノール濃度を相当上げなければならない。しかし、手術期から延髄麻痺に移行する期間は逆に全身麻酔薬より短く、速やかに呼吸機能・心拍機能を停止させて死に至らしめる(急性アルコール中毒)。このためエタノールは全身麻酔薬と作用は似ているが全身麻酔薬として用いるには適さない。

2014年11月29日土曜日

抗てんかん薬・中枢性筋弛緩薬

抗てんかん薬・中枢性筋弛緩薬


① てんかんとはどのような病気であるか、またその原因について述べよ。
② てんかん発作の分類について述べよ。
③ てんかん治療薬についてどの発作に有効なのかとあわせて述べよ。
④ 中枢性筋弛緩薬について述べよ。





① てんかんとはどのような病気であるか・てんかんの原因

てんかんとは脳神経系(大脳のニューロン)の過剰な発火により、反復性の発作(てんかん発作)を起こす慢性の脳疾患である。各発作により特徴的な脳波が見られ、てんかん患者の脳波は正常時もてんかんではない人と異なり、同じ神経内で形成される回路である異所性回路が見られる。てんかんの原因は多種多様である。イオンチャネルや神経伝達物質に関連する遺伝子異常が示唆され、脳の器質的変化を伴う症候性(続発性)のもの、脳の器質的変化を伴わない原発性(突発性)のもの、原因疾患が不明な潜在性のものがある。


② てんかん発作の分類

てんかん発作は大脳皮質全体に渡り明確な焦点のない全般発作と大脳の限定された部分に焦点がある部分発作がある。全般発作には強直間代発作(大発作)・欠神発作・脱力発作などが含まれ、部分発作には複雑部分発作(精神運動発作)と単純部分発作がある。大発作は突然の意識消失とともに、強直間代痙攣発作が起こり、1 分間前後発作が持続する。治療薬にはフェニトイン・フェノバルビタールなどを用いる。欠神発作は痙攣を伴わず、突然出現し突然回復する数秒から数十秒の意識消失発作で、動作や会話が急に止まり意識がなくなる。治療薬にはエトスクシミド・バルプロ酸などが用いられる。脱力発作は突然の筋緊張の低下で意識消失を伴わない発作である。
複雑部分発作は意識障害を伴う部分発作で、数十秒から数分間持続し、ほとんどが自動症を伴う。単純部分発作は意識障害がなく焦点となった脳部位の障害が現れる。部分発作の治療薬にはカルバマゼピン・ゾニサミドなどが用いられる。



③ てんかん治療薬

フェニトインは古くから抗てんかん薬として使用され、部分発作や全般強直間代発作に有効であるが、欠神・脱力発作には無効である。眼球振盪・複視などの副作用がある。カルバマゼピンは部分発作に有効で複雑部分発作の第一選択薬であるが、欠神・脱力発作には無効である。双極性うつ病にも有効である。興奮性シナプス伝達抑制、GABAの作用増強をもたらす。複視・運動失調などの副作用がある。ゾニサミドは部分発作や全般強直間代発作に有効で難治症例にも効果がある。エトスクシミドは欠神発作の第一選択薬であり、T型Caチャネルを阻害する。全般強直間代発作・脱力発作には無効である。バルプロ酸は欠神発作を含む全般発作に有効であり、躁うつ病や偏頭痛予防効果もある。Kチャネルに作用して興奮性を抑制する。悪心・肝障害などの副作用がある。フェノバルビタールは部分発作や全般強直間代発作に有効であり、催眠作用もあるが、それより低用量で抗痙攣作用がある。プリミドンはフェノバルビタールのプロドラッグである。クロバザムはベンゾジアゼピン誘導体で、他の抗てんかん薬と併用する。難治性のてんかんに比較的有効である。


④ 中枢性筋弛緩薬

中枢性筋弛緩薬は神経筋接合部や上位運動中枢へは作用せずに、脊髄における多シナプス性反射を抑制して筋弛緩をさせる。バクロフェンはGABAB作動薬であり、単・多シナプス反射を抑制する。サブスタンスP遊離を抑制して鎮痛作用がある。脳血管障害などに使用される。チザニジンはα2アドレナリン受容体作動薬であり、多シナプス反射を抑制する。侵害伝達を抑制して鎮痛作用がある。腰痛などに使用される。エペリゾンは多シナプス反射を抑制する。筋紡錘感度を低下させたり、Ca拮抗と亣感神経系抑制により降圧させたりする。

2014年11月22日土曜日

催眠・鎮静薬

催眠・鎮静薬


① 睡眠及び夢について述べよ。
② 催眠・鎮静薬について述べよ。
③ ベンゾジアゼピン受容体に対するインバースアゴニストについて述べよ。





① 睡眠・夢

睡眠の生理については不明な点が多く、古来研究対象となっている。脳幹網様体→視床→大脳皮質が意識水準を保ち、この活動低下が傾眠をもたらす。ノルアドレナリン・セロトニン・ドパミン神経系も睡眠に関与している。睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、普通の睡眠ではレム睡眠とノンレム睡眠を約1 時間半の周期で繰り返している。レム睡眠は亣感神経系が亢進し脳波では覚醒状態であり、ノンレム睡眠は副亣感神経系が亢進し脳波は徐波である。睡眠にはアデノシン・メラトニン・オレキシンなども関与しており、覚醒から突然レム睡眠となるナルコレプシーはオレキシン含有神経の選択的な細胞死が原因である。熟眠できずに日中に眠気に襲われる睡眠時無呼吸症候群は事故との関連で社会問題化し、またうつ病患者の初期症状は不安や睡眠障害である。夢はそ
のほとんどをレム睡眠時に見ていて、翌朝覚えているのは、最後のレム睡眠時の夢である。古くから研究対象とされ、記憶に関与していると考えられている。



② 催眠・鎮静薬

不眠症には入眠障害・中途覚醒・熟眠困難がある。催眠薬とは睡眠と似た中枢神経抑制状態を起こす薬のことであるが、完全に自然な眠りを誘起する薬はなく、長期使用は避けるべきで、連用中止によりリバウンドが起こることがある。バルビツール酸誘導体はGABAA受容体に作用し、抑制性神経機能を亢進させ、興奮性シナプス伝達を抑制することで強い催眠と急激な眠りをもたらす。しかし、バルビツール酸誘導体には強い依存性や過量による急性中毒などの欠点があるため、現在催眠薬にはベンゾジアゼピン(BDZ)誘導体が汎用されている。また、チオペンタールは麻酔前投与薬、フェノバルビタールは抗てんかん薬として使用されている。ベンゾジアゼピン誘導体は安全で鎮静・催眠・抗不安などの作用を持つ。GABAA受容体に作用し、抑制性神経伝達を増強させ、自然に近い眠りを誘発する。倦怠感や刺激応答性の低下などの副作用がある。ブロチゾラム・トリアゾラム・クアゼパム・ニトラゼパムなどがあり、ゾルピデムはBDZ構造ではないが、BDZ受容体に作用する。古くから、ブロマイド・抱水クロラール・パラアルデヒドなどが催眠薬として使用されてきた。1960年頃に奇形児で問題となったサリドマイドも催眠薬であり、最近その作用が見直され他疾患の治療に使用され始めている。

③ ベンゾジアゼピン受容体に対するインバースアゴニスト

GABAA受容体複合体の一部をなすベンゾジアゼピン受容体は、内因性リガンドなどの影響で一部が常時活性化し、アゴニスト非存在下では活性型と不活性型が平衡状態にある。BDZ受容体のアゴニストは、活性型受容体に強い親和性をもち活性型を安定化することで、平衡を活性型へずらしてシグナルを増幅する。これに対してBDZ受容体のインバースアゴニストは、不活性型受容体に強い親和性をもち、平衡を不活性型にずらしてシグナルを抑制する。フルマゼニルなどのBDZ受容体のアンタゴニストは、活性型・不活性型どちらの受容体にも結合するため、アゴニスト,インバースアゴニスト双方のベンゾジアゼピン受容体への結合を阻害し、それぞれのはたらきを抑制する。

2014年11月15日土曜日

全身麻酔薬

全身麻酔薬


① 全身麻酔薬の特徴と臨床適用について述べよ。
② 全身麻酔薬の作用機序について述べよ。
③ 主な全身麻酔薬とその作用について述べよ。



① 全身麻酔薬の特徴と臨床適用

外科的手術に必須な全身麻酔の条件は睡眠(無意識)、鎮痛および筋弛緩(不動化)である。全身麻酔ではこれらを可逆的に、任意の時間だけ得られることが望まれる。静脈注射による静脈内麻酔と肺からの吸入による吸入麻酔が一般的である。初期には全身麻酔薬として笑気(亜酸化窒素)・エーテル・クロロホルムが用いられた。全身麻酔薬は中枢を非特異的に抑制するが、一様に抑制するわけではなく、下行性に進行し、大脳皮質→大脳基底核→小脳→脊髄→延髄の順に抑制する。麻酔深度には第Ⅰ期から第Ⅳ期まであり、手術適応期は第Ⅲ期の第2・3相である。麻酔深度が第Ⅳ期になると呼吸停止・血圧低下が起こり死に至るので、麻酔深度を的確に判断する必要がある。麻酔前投与薬には、抗不安薬・鎮静薬・鎮痛薬・副亣感神経遮断薬・制吐薬・筋弛緩薬などがある。


② 全身麻酔薬の作用機序

古くから多くの仮説が提唱されているが、実験証拠がありすべての現象を説明できるものはない。意識消失、鎮痛、運動・反射の抑制、記憶喪失などの作用強度や脳での作用点は個々の麻酔薬によって異なり、一般的な拮抗薬は存在しない。油/ガス分配係数と麻酔作用が相関を示すというリポイド説は、立体特異性が無く、麻酔作用を持つ分子構造の多様性、拮抗薬が無く、水溶性が高い分子の作用発現が遅いことなどが説明できる。酸化的リン酸化の阻害・ATPase活性の抑制によるとするエネルギー代謝・利用抑制説や、麻酔薬の標的は蛋白質でシナプス伝達に作用するという蛋白質説もある。GABAA受容体に作用し、グルタミン酸受容体のNMDA受容体やアセチルコリン受容体のニコチン受容体を抑制するなどの興奮性シナプス伝達の抑制によるとも考えられている。


③ 主な全身麻酔薬とその作用

全身麻酔薬には用量の増減が容易な吸入麻酔薬と即効性の静脈内麻酔薬がある。吸入麻酔薬には揮発性のハロタン・セボフルラン・イソフルラン、ガス性の亜酸化窒素(笑気)があり、静脈内麻酔薬にはプロポフォール・ケタミンがある。ハロタンは局所刺激性がないが、鎮痛作用が弱いので笑気と併用する。不整脈を誘発し、肝機能を抑制する。セボフルラン・イソフルランは導入・回復が速やかで、肝障害や不整脈誘発はハロタンより弱い。亜酸化窒素は強力な鎮痛作用を持つが、手術適応期になりにくいので他の全身麻酔薬と併用し、低酸素に注意する。プロポフォールは中枢神経におけるGABAA受容体に作用する。導入・回復が速やかで、術後嘔吐などの不快感が尐ない。麻酔の維持にオピオイドや笑気を併用し、血圧を低下させる作用がある。乳濁注射液なので凍結後は使用不可である。ケタミンはNMDA受容体拮抗薬として作用し、解離型麻酔薬とも呼ばれる。強い鎮痛作用を持ち、回復に時間がかかり、回復後も記憶喪失作用がある。乱用により麻薬指定がされている。

2014年11月8日土曜日

中枢神経系の神経伝達

中枢神経系の神経伝達


① グルタミン酸の中枢神経系における役割とその生合成・貯蔵・取り込みについて述べよ。
② グルタミン酸受容体について述べよ。
③ GABA(γ-アミノ酪酸)の役割とその分布・生合成・貯蔵・遊離・取り込みについて述べよ。
④ GABA 受容体について述べよ。
⑤ GABA は脳内の主要な抑制性神経伝達物質であり、GABAA 受容体は多くの中枢神経系薬物の作用点となっている。 GABAA 受容体に作用して臨床効果を発揮する薬物(群)を列挙し、薬理作用を説明せよ。また、共通の作用がありながら、薬理作用や臨床応用が大きく異なる理由について考察しなさい。
⑥ 以下の囲み記事はギャバ入り食品を説明した、あるインターネットサイトの文章(一部改変)である。著者が、抑制性神経と個体レベルでの鎮静を混同していることを含め、全体的に明らかに間違った内容となっている。以下の設問に答えなさい。


あなたはチョコレートを食べて、ホッとしたことはありませんか?それはチョコレートに含まれるギャバの効果です。ギャバ(GABA)の正式名はγアミノ酪酸といい、脳内で抑制系の神経伝達物質としてはたらいており、ギャバを摂ることでイライラなどをやわらげる効果があります。ストレスで痛めつけられた神経を鎮静してくれたり、精神の安定にも役立ちます。睡眠障害、自律神経の失調、うつ、更年期の抑うつや初老期の不眠といった症状の改善にも効果が期待されています。


(1)一つ一つの興奮性、抑制性神経の活動と個体レベルでの興奮、鎮静との関係について説明しなさい。
(2)経口摂取したGABA の脳内移行はほとんどないが、もし移行したとしたら、どのような症状が現れると考えられるか。また、そう考えた理由も述べなさい。
(3)うつ病患者で脳内GABA 濃度が上昇したときに起こることを予想しなさい。




①グルタミン酸の役割と生合成・貯蔵・取り込み

グルタミン酸は中枢神経系における主要な興奮性神経伝達物質であり、脳神経系の情報伝達・可塑性・形成に重要な役割を担っている。グルタミン酸はα-ケトグルタル酸・アスパラギン酸・グルタミンから生成される。グルタミン酸の生合成は前駆物質であるグルタミンの蓄積により一部調節され、さらに、最終産物により抑制性制御を受けている。生合成されたグルタミン酸は、ATP 依存性でプロトン勾配を利用する小胞グルタミン酸トランスポーター(VGLUT)によりシナプス小胞に取り込まれる。シナプス間隙に放出されたグルタミン酸は神経終末にそのまま取り込まれる以外に、グリア細胞に取り込まれ、グルタミンとなり遊離される。グルタミンは神経でグルタミン酸に変換される。細胞外のグルタミン酸濃度が長時間上昇すると傷害性を示す。興奮性神経細胞は高濃度のグルタミン酸を含むので、傷害を受けた細胞からグルタミン酸が遊離しさらに周囲の細胞を傷害させる。



② グルタミン酸受容体

グルタミン酸受容体にはイオンチャネル型と代謝型があり、イオンチャネル型はNon-NMDA型とNMDA型に分類される。Non-NMDA型はさらにAMPA型とKainate型に分類される。AMPA受容体はNa⁺・K⁺を通す非選択的陽イオンチャネルであり、一部はCa²⁺透過性を有し、速い興奮性神経伝達の大部分を担っている。NMDA受容体はNa⁺・K⁺・Ca²⁺非選択性イオンチャネルである。静止膜電位付近ではMg²⁺により抑制されているが、シナプス後膜が大きく脱分極するとMg²⁺による抑制が解除され活性化する。遅い興奮性神経伝達を担い、シナプス可塑性や神経回路構築に重要な役割を果たし、虚血などによる神経傷害にも関与している。NMDA受容体はグリシンやポリアミンにより増強され、フェンシクリジンやケタミン結合部位など多くの修飾物質が知られている。代謝型はイノシトールリン酸やG蛋白質と共役し、シナプスやグリア細胞に存在し、広範な作用を示す。


③ GABAの役割と分布・生合成・貯蔵・遊離・取り込み

GABAは興奮性伝達物質によるシナプス伝達を抑制する神経伝達物質として重要な役割を担い、多くの中枢抑制薬の作用点である。GABAは脳内に広く分布し、黒質・淡蒼球などに特に多い。末梢の膵ランゲルハンス島β細胞などにも分布し、末梢では血圧低下作用などを持つ。GABAはグルタミン酸からGAD(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)により合成される。ビタミンB6はGADの補酵素であり、ビタミンB6欠乏によってGABAは減尐する。GABAは小胞GABAトランスポーター(VGAT)により神経終末の扁平なシナプス小胞内に貯蔵される。GABAは神経インパルスによってCa²⁺依存性にシナプス間隙に遊離されるが、開口分泌によらない遊離が多い。シナプス間隙に遊離されたGABAは神経終末およびグリア細胞へ急速に取り込まれる。


④ GABA受容体

GABA受容体にはGABAA受容体・GABAB受容体・GABAC受容体がある。GABAA受容体はCl⁻チャネルと共役し、GABAが結合するとCl⁻が流入して神経細胞が過分極し、興奮性入力による脱分極効果が抑制される。ベンゾジアゼピンやバルビツール酸により増強され、ビククリンやピクロトキシンにより抑制され、また、てんかんや痙攣発現と関係がある。GABAB受容体は主にシナプス前終末に存在し、K⁺チャネルの活性化による過分極を引き起こし、GABAをはじめとする多くの神経伝達物質の遊離を抑制する。作用薬はバクロフェンである。

⑤ GABAA受容体に作用する薬物

●ベンゾジアゼピン
GABAA受容体に作用し、Clチャネルの開口頻度を増強することで、Cl⁻透過性を高めて過分極させ、活動電位の発生を抑制する。抗不安薬・鎮静薬・催眠薬・抗けいれん薬・筋弛緩薬として使用されている。

●バルビツール酸
GABAA受容体に結合しClチャネルを開口することですることで抑制性神経機能を亢進し、かつGlu受容体も弱く抑制することで興奮を抑制する。鎮静薬・催眠薬・抗けいれん薬・静脈麻酔薬として使用されている。

●アルコール
抑制性GABAA受容体の作用を増強し興奮性NMDA型Glu受容体を抑制する。中枢神経細胞の感受性の違いに応じて作用は下行性に進行するが、中枢神経系の脱抑制による興奮期の持続が全身麻酔薬よりも長い。また、手術期から延髄麻痺に移行するまでの期間は逆に全身麻酔薬より短く、速やかに呼吸機能,心拍機能を停止させて死に至らしめる。



●全身麻酔薬
エンフルランやプロポフォールはGABAA 受容体を活性化することで麻酔作用を発現する。全ての全身麻酔薬がGABAA 受容体に作用するわけではない。


これらはすべて同じGABAA 受容体に作用する。このうち、アルコールと揮発性麻酔薬は作用部位も同一だが、これとベンゾジアゼピン、バルビツール酸の作用点はそれぞれ異なる。また、それぞれ受容体との親和強度も異なる。これらの要因から、それぞれの薬物のCl チャネルの開口作用の有無,開口頻度の増強ないし開口時間の延長の程度に差異が生じることで、薬理作用や臨床応用は異なると考えられる。また、NMDA 型Glu 受容体等、GABAA 以外の受容体への作用の有無も関係すると考えられる。



⑥ GABA 神経系

(1)興奮性神経の活動は、主に興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸を伝達物質として行われる活動で、電位の変化による興奮が伝達される。グルタミン酸の受容体には、イオンチャネル型と代謝型の2 種類がある。これに対して、抑制性神経の活動は、主にGABA を神経伝達物質として、神経細胞の電位変化を抑えて、興奮の伝達を抑制する。GABA 受容体には、GABAA、GABAB の2 種類がある。GABAA はCl チャネルと共役していて、細胞の電位変化を抑え、神経伝達物質の遊離を抑制する。GABAB は、K チャネル活性化による過分極を引き起こす。また、個体レベルでの興奮・鎮静は亣感神経と副亣感神経の拮抗によって制御されている。そのため、興奮性の活動を行っている神経と、抑制系によって抑制される神経がいずれに属するかによって、個体レベルでの
興奮と鎮静が決まっている。

(2)GABA は、神経細胞の電位変化を抑制したり、過分極を引き起こしたりすることで、神経細胞の興奮伝達を妨げる。経口由来のGABA が移行して濃度が高くなると、神経系の活動が抑制されることに加えて、GABA 受容体作動薬に、催眠・鎮静効果があることから、催眠・鎮静効果があると考えられる。

(3)ノルアドレナリンやセロトニンなどの脳内モノアミンの低下がうつ病の原因であると考えるモノアミン仮説が正しいとすると、神経伝達物質の遊離・神経細胞の興奮伝達を抑制するGABA は、うつ病の症状を重くすると考えられる。

2014年11月1日土曜日

強心薬・心不全治療薬

強心薬・心不全治療薬

① 心不全とはどのような病気であるか・慢性心不全の代償機構について述べよ
② 強心配糖体の作用機序と副作用について述べよ
③ cAMPを増加させる強心薬について述べよ
④ その他の心不全治療薬について述べよ




① 心不全とは・慢性心不全の代償機構

• 心不全は心筋障害などによる心機能低下により、心臓が適切に末梢組織に血液を供給できない状態で、心筋梗塞・拡張型心筋症などの器質的心疾患の結果として生じる。慢性心不全により、心臓に様々な代償機構が働く。レニン‐アンジオテンシン系の亢進により腎臓でのNaと水の再吸収量が増加し、循環血液量の増大で心拍出量が増加(Frank‐Starling機構)したり、交感神経の活性化により心拍数が増加し、心拍出量が増加したり、末梢細動脈の収縮により、脳・腎臓などの中央循環を維持したりする。これらの代償機構により浮腫・不整脈・末梢組織の酸素不足や心筋のリモデリングを引き起こし、心機能がさらに悪化し悪循環に陥る。




② 強心配糖体の作用機序と副作用

• 強心配糖体の代表的なものとして、ジギタリスがある。これは、Na+/K+‐ATPaseを阻害することで、細胞内Na⁺濃度を上昇させる。これにより、Na⁺‐Ca²⁺交換系の逆交換(Ca²⁺の流入)を促進し、心筋細胞内Ca2+濃度を上昇させ、心収縮力の増強と心拍数低下を引き起こし、心機能効率が良くなる。治療域濃度のジギタリスは、副交感神経緊張を高め、交感神経緊張を下げ、心臓の刺激伝達系を抑制する。ジギタリスにはジギトキシンやジゴキシンがあり、主にジゴキシンが臨床でうっ血性心不全や、心房細動などの不整脈に適用される。しかし、ジギタリスは治療域が非常に狭く、治療域を超えると異所性不整脈、心室性不整脈、消化器症状(悪心、嘔吐、食欲不振)などの重篤な副作用が見られる。



③ cAMPを増加させる強心薬

• 心筋収縮力を増強する目的で、ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害あるいはアデ二ル酸シクラーゼの活性化によってcAMPを増加させ、筋小胞体のCa²⁺含量を増加させる薬が心不全治療に用いられる。β1受容体に作用するカテコラミン類にはドパミン・ドブタミン・デノパミンがあり、心収縮力を増強する。デノパミンはβ1受容体の部分作用薬で脱感作しにくい。PDE阻害薬はPDE阻害によりcAMPの分解を抑制し、β受容体を介さずにcAMPを増加させる。脱感作しにくく、心収縮力増強作用と血管弛緩作用を持つ。アムリノン・ミルリノン・ピモベンダンがある。また、cAMPアナログとしてブクラデシンがあり、これは細胞内でcAMPに変化して心収縮力増強作用、末梢血管拡張による後負荷減少作用を持つ。



④ その他の心不全治療薬

• レニン‐アンジオテンシン系阻害薬のACE阻害薬(エナラプリルなど)やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ロサルタン・カンデサルタンなど)は血管拡張作用による前負荷および後負荷抑制して心不全を改善する。さらに、血管リモデリングを抑制し、心筋保護作用を持つ。アドレナリンβ受容体遮断薬は心不全で過剰に亢進した交感神経作用に拮抗して、突然死を防ぐ。カルベジロールなどが使われるが、用量の設定が難しい。
*急性心不全には利尿薬や亜硝酸化合物を経静脈的に、慢性心不全には強心配糖体・アンジオテンシン系阻害薬・利尿薬を併用して経口的に用いられる。

2014年10月25日土曜日

虚血性心疾患治療薬

虚血性心疾患治療薬

① 狭心症とはどのような病気であるか、またその治療について述べよ
② 労作性狭心症と安静狭心症の成因と治療法の違いについて述べよ
③ 側副血行路を説明せよ。
④ ニトログリセリンの狭心症作用の機序とその他の狭心症治療薬について述べよ
⑤ 心筋梗塞とはどのような病気であるか、またその治療薬・予防薬について述べよ




① 狭心症とは・狭心症の治療

• 狭心症は、冠血流による心筋への酸素供給と心筋の酸素消費のバランスが崩れ、心筋の一部が一過性に酸素欠乏(虚血)状態に陥るために発生する病態である。胸痛発作が特徴で、肩や上肢などにも痛みが放散する。狭心症の治療には心仕事量を低下させ心筋の酸素需要を低下させる・虚血部への血流増加により酸素供給を増加させる・スパスム(冠動脈の痙攣)の寛解、予防・動脈硬化の防止と側副血行路の確保がある。また、心筋梗塞への移行防止も重要である。




② 労作性狭心症と安静狭心症の成因・治療法の違い

• 労作性狭心症は、冠動脈の器質的狭窄により、運動や階段を上るときなどの労作時に増えた心筋酸素需要に見合う冠血流増加がない時に起こる狭心症である。安静狭心症は、冠動脈の攣縮や血栓形成により心筋への酸素供給が不足した時に起こる狭心症である。労作に関係なく、夜間就寝中や早朝の日常動作などで胸痛が生じる。労作性狭心症には心筋の酸素消費量を減らすβ受容体遮断薬が有効で、安静狭心症には冠血管攣縮を抑制するCa拮抗薬が有効である。また、どちらのタイプの狭心症にも硝酸薬は有効である。




③ 側副血行路

• 側副血行路とは、血管の狭窄・閉塞などでの順行性血流不足部位へ血液を供給するために、対側または同側動脈が屈曲・拡張してできた血流路のことで、自然のバイパスといえる。通常の血管径は200μm以下であるが、圧力差により拡張する。血管の狭窄が緩徐に進行すると、側副血行路の発達により梗塞に至らない場合もある。



④ ニトログリセリンの狭心症作用の機序・その他の狭心症治療薬

• ニトログリセリンは体内で脱ニトロ化され一酸化窒素(NO)を遊離する。NOはグアニル酸シクラーゼを活性化し、cGMPの産生を促す結果、細胞内のCa2+濃度が低下するため血管平滑筋が弛緩し、血管拡張を起こさせる。また、全身に投与すると、血液の心臓帰還量(前負荷=静脈への作用)が減少する。
• Ca拮抗薬は強い降圧作用により後負荷(=動脈への作用)を減少させたり、冠血管攣縮を抑制する。ジルチアゼム・ベラパミルなどがある。β受容体遮断薬は心拍数や心筋仕事量を減らし、酸素消費量を減らす。また、血圧降下により後負荷を減少させる。プロプラノロール・アセブトロールなどがある。その他、アデノシンの血管拡張作用を増強するアデノシン作用増強薬のジラゼップ・ジピリダモールがある。



⑤ 心筋梗塞とは・心筋梗塞の治療薬・予防薬

• 心筋梗塞とは、冠循環障害による酸素供給不足が一定期間続くことにより起こる心筋の変性や壊死のことである。粥状硬化巣の破綻による血栓、栓塞などが原因で、壊死部から酵素が遊離したり、激しい胸痛・呼吸困難・吐き気などが症状としてあらわれる。治療にはプラスミノゲンを血栓(フィブリン)溶解作用を持つプラスミンに変換するtPA(組織型プラスミノゲンアクチベーター)などの血栓溶解薬や、鎮痛薬・抗血液凝固薬・抗不整脈薬などが用いられる。

2014年10月18日土曜日

抗不整脈薬

抗不整脈薬

① 不整脈とはどのような病気であるか、またその発生機序について述べよ
② torsades de pointesを説明せよ
③ 不整脈の原因の一つであるリエントリーの発生機序とそのサイクルを断ち切るためにどのような機序の薬が使われるか述べよ
④ 抗不整脈薬のVaughan Williamsによる分類と主な薬物について述べよ


① 不整脈とは・不整脈の発生機序


• 不整脈とは正常洞調律以外の心臓電気現象の異常の総称である。調律の異常や拍数の異常が起こり、頻脈には投薬治療を、徐脈には人工ペースメーカー治療が行われる。不整脈のなかでも心室細動は致死的である。不整脈は異所性刺激・自動能の異常などの刺激生成の異常や、洞房接合部・心筋細胞間などにおける伝導遅延やブロックなどの刺激伝導の異常によって引き起こされる。刺激生成異常にはtorsades de pointes(倒錯型心室頻拍)、刺激伝導異常にはリエントリーなどの重篤な症状になりうる異常もある。



② torsades de pointes

• torsades de pointesとは脱分極後の再分極の遅れにより、再分極過程から再び脱分極(早期脱分極)することで起こる倒錯型心室頻拍のことである。QT延長が原因となり、心室細動に移行して突然死へといたる可能性がある。Kチャネル拮抗薬などの重篤な副作用である。
*QT間隔とはAPD(活動電位持続時間)の平均的な長さのこと



③ リエントリーの発生機序とそのサイクルを断ち切るためにどのような機序の薬が使われるか

• 心筋の興奮は、洞房結節から心室筋細胞へと秩序だって伝導し消失するが、病的組織(伝導速度が異なる部位)があると、興奮の一部がもとに来た方向に引き返してしまう。すると、興奮が旋回する回路が生じ、本来は一度の興奮で何度も興奮が起こってしまい、結果、(頻脈性)不整脈になってしまう。このような状態をリエントリーと呼ぶ。心筋の不応期が短く、また伝導速度が遅いほどリエントリーのサイクルは安定する。このサイクルを断ち切るためには、不応期を延長させる薬(Na⁺チャネル拮抗薬・K⁺チャネル拮抗薬など)が有効である。薬としては、プロカインアミド・ジソピラミド・アミオダロンなどが挙げられる。



④ Vaughan Williamsによる分類と主な薬物

• クラスⅠはNaチャネル拮抗薬で、aタイプはAPDを延長し、伝導も抑制する。期外収縮などに用いられ、キニジン・プロカインアミド・ジソラピドがある。bタイプはAPDを短縮し、心室性不整脈に用いられる。リドカイン・メキシレチン・フェニトインがある。cタイプはAPDは不変で伝導抑制が強い。フレカイニドやピルジカイニドがある。クラスⅡはアドレナリンβ1受容体遮断薬で、交感神経亢進による不整脈に有効である。アセブトロールやアテノロールがある。クラスⅢはKチャネル拮抗薬でAPDと不応期を延長する。アミオダロンがあり、重篤な副作用があるため他の薬が無効な例に限り用いられる。クラスⅣはCaチャネル拮抗薬で、心筋の興奮を抑制する。ベラパミルがあるが、全てのCa拮抗薬が有効なわけではない。

2014年10月11日土曜日

高血圧症治療薬

高血圧症治療薬

① 高血圧症とはどのような病気であるか、また治療薬にはどのような種類があるか述べよ
② レニン‐アンジオテンシン系とそれに作用する薬について述べよ
③ 血管拡張薬について述べよ
④ 交感神経遮断薬について述べよ


高血圧症とは・高血圧症治療薬の分類
• 高血圧症は正常範囲以上の血圧が持続する状態であり、収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上が高血圧の目安になる。大部分は原因不明の本態性高血圧症であり、残りはストレスなどが原因である。末梢血管抵抗の増大が原因と考えられ、高血圧の長期持続により腎不全・心不全・脳梗塞などの危険性が増える。治療には薬物療法だけでなく減塩・肥満防止・運動などの生活習慣の改善が必要である。また、高血圧症治療薬には血管拡張薬・交感神経遮断薬・ACE阻害薬・アンジオテンシンⅡ受容体遮断薬・利尿薬がある。


② レニン‐アンジオテンシン系とそれに作用する薬
• 腎臓の傍糸球体細胞から分泌されたレニンにより、アンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンⅠが生成され、主に肺血管内皮細胞に存在するACEによってアンジオテンシンⅡへ転換される。アンジオテンシンⅡが受容体に結合すると、副腎皮質でのアルドステロンの合成・分泌が促進され、末梢血管が収縮し、腎集合管での再吸収を促進する。これによって体液量が増加する事により、昇圧作用をもたらし、さらに心肥大、血管内皮肥厚ももたらす。ACE阻害薬はアンジオテンシンⅡを抑制する。例として、カプトプリル・エナラプリル・テモカプリルがあり、空咳が主な副作用である。アンジオテンシン受容体遮断薬はアンジオテンシンⅡと拮抗し血管を拡張する。例として、ロサルタン・カンデサルタンがあり、空咳が少ない。


③ 血管拡張薬
• Ca拮抗薬は血管平滑筋のL型Caチャネルを阻害して、血管平滑筋を弛緩させ末梢抵抗を下げることにより血圧を下げる。ニフェジピン・ニカルジピンなどのジヒドロピリジン系・ジルチアゼム・ベラパミルがあり、ジルチアゼムとベラパミルは心機能を抑制する。頭痛やめまいなどの副作用がある。他の血管拡張薬としては、NOを放出して直接血管を拡張させるニトロプルシドや細動脈に直接作用し拡張させるヒドララジンがある。


④ 交感神経遮断薬
• α1アドレナリン受容体遮断薬にはプラゾシン・ブナゾシンがあり、抵抗血管を拡張させる。βアドレナリン受容体遮断薬にはプロプラノロール・ピンドロール・アテノロールがあり、心拍出量を減少・レニン分泌抑制などをもたらす。投薬中止によるリバウンドが起こることがある。また、α1とβ受容体遮断作用をもつラベタロールもある。中枢性α2アドレナリン受容体遮断薬にはクロニジン・αメチルドパがあり、交感神経活動を抑制し、末梢抵抗の低下と心拍出量を抑制をもたらす。他には、ノルアドレナリン遊離を抑制する神経伝達遮断薬のグアネチジンや、カテコラミンを枯渇させる神経伝達物質枯渇薬のレセルピンがある。

2014年10月4日土曜日

利尿薬

利尿薬


① 利尿薬の薬理作用と腎臓の機能・構造について述べよ
② 尿の生成過程について述べよ
③ ループ利尿薬とチアジド(サイアザイド)系利尿薬の作用部位・薬効の強さ・使い方の差異を述べよ
④ その他の利尿薬の作用部位・使い方について述べよ




① 利尿薬の薬理作用と腎臓の構造
• 利尿薬は尿量とともにNa⁺、Cl⁻の排泄を増加させる医薬品であり、浮腫や高血圧などの治療に用いられる。
• 腎臓は体内の水・電解質の恒常性を維持する重要な臓器で脊椎の両側に存在する。腎臓にはその構成単位であるネフロンが約1万個ある。ネフロンは尿細管と腎小体からなる。尿細管は近位尿細管・ヘンレループ・遠位尿細管からなり、腎小体は糸球体・ボーマン嚢から成り立っている。また、ネフロンは均一ではなく、腎内の存在位置によりその構造や機能が大きく異なっている。


② 尿の生成過程
• まず、糸球体で血液中の血球・蛋白・脂質以外の血液成分が糸球体濾過を受け150L/日の原尿が作られる。次に、尿細管で再吸収される。近位尿細管では、受動的再吸収によりアミノ酸・炭酸水素イオン・水を再吸収し、Na KポンプによりNa⁺・K⁺を再吸収し、炭酸脱水素酵素によりNa⁺を再吸収し血液や尿のpHを調節している。ヘンレループでは、周囲血管と対向流系をつくり、Na⁺‐K⁺‐2Cl⁻共輸送によりNa⁺とCl⁻を再吸収する。水は再吸収されない。遠位尿細管では、Na⁺ポンプ、炭酸脱水素酵素、アルドステロンによるNa⁺‐K⁺交換作用によりNa⁺を再吸収し、K⁺とH⁺の排泄を増加する。集合管では、抗利尿ホルモン(ADH、バゾプレシン)により水を再吸収する。


③ ループ利尿薬とチアジド(サイアザイド)系利尿薬の作用部位・薬効の強さ・使い方の差異
• ループ利尿薬はヘンレ上行脚のNa⁺‐K⁺‐2Cl⁻共輸送を阻害し、Na⁺とCl⁻の再吸収を抑制する。また、プロスタグランジン類を介し腎血流量を増加させる。強力な利尿作用を持つ。例として、フロセミド・ブメタニド・エタクリン酸などがあり、急性肺水腫やうっ血性心不全などに用いられる。低カリウム血症や聴覚障害などが主な副作用である。
• チアジド系利尿薬は遠位尿細管のNa⁺‐Cl⁻共輸送を阻害する。利尿作用はループ利尿薬より弱いが降圧作用が強いため高血圧症に対して用いられる。例として、ヒドロクロロチアジドやトリクロロチアジドなどがあり、抗カリウム血症や高脂血症などが主な副作用である。


④ その他の利尿薬の作用部位・使い方
• 炭酸脱水素酵素阻害薬は近位尿細管のH⁺‐Na⁺交換系を介するNa⁺の再吸収を抑制する。アセタゾラミドは尿をアルカリ性にし、浮腫や緑内障などに用いられる。鉱質コルチコイド受容体拮抗薬はカリウム保持性利尿薬で、遠位尿細管や集合管でアルドステロンの作用を抑制する。スピロノラクトンは高アルドステロン血症に効果があり、ループ利尿薬やチアジド系利尿薬と併用される。腎上皮Na⁺チャネル阻害薬もカリウム保持性利尿薬で、遠位尿細管や集合管のNa⁺チャネルを抑制する。トリアムテレンがあり、他の利尿薬と併用して低カリウム血症を予防する。浸透圧利尿薬は水の再吸収を抑制し浸透圧を上昇させる。マンニトール・イソソルビド・グリセリンがあり、腎不全予防や脳圧・眼圧亢進の治療に用いられる。

2014年9月27日土曜日

末梢性筋弛緩薬

末梢性筋弛緩薬

① 末梢性筋弛緩薬の薬理作用・使用目的・臨床適用・構造的特徴について述べよ
② 末梢性筋弛緩薬の作用機序による分類と主な薬物について述べよ


① 末梢性筋弛緩薬の薬理作用・使用目的・臨床適用・構造的特徴

• 末梢性筋弛緩薬とは骨格筋の選択的弛緩をもたらす薬物のうち、神経筋接合部や筋細胞に作用するもののことである。これは、外科手術時の全身麻酔の補助・痙攣性疾患・電気ショック療法の補助などに使用される。主な副作用としては、筋肉痛や徐脈などがあり、緑内障患者には禁忌である。その構造的特徴は、アセチルコリンと類似の構造を分子内に有し、第4級アンモニウム基を有することである。

②末梢性筋弛緩薬の作用機序による分類と主な薬物

• 競合的拮抗薬にはクラレ・d‐ツボクラリン・パンクロニウム・ベクロニウムがある。これは神経筋接合部においてニコチン性アセチルコリン受容体をアセチルコリンと競合し、コリンエステラーゼ阻害薬と拮抗する。収縮の速い小さな筋から弛緩していく。脱分極性拮抗薬にはサクシニルコリン・デカメトニウムがある。これは持続的な脱分極により神経伝達を抑制する。サクシニルコリンはコリンエステラーゼで分解され、コリンエステラーゼ阻害薬によって作用が増強される。 Ca²⁺遊離阻害薬にはダントロレンがあり、筋小胞体からのCa遊離を抑制して筋を弛緩させる。悪性高熱症に有効である。伝達物質遊離阻害薬にはボツリヌス毒素があり、シナプス小胞からの開口放出を不可逆的に阻害する。顔面の痙攣の治療などに用いられるが、新たな神経終板が形成されるため効果は徐々に消失する。

2014年9月20日土曜日

局所麻酔薬

局所麻酔薬

① 局所麻酔薬の使用目的と適用方法について述べよ
② 局所麻酔薬の作用機序と知覚神経の感受性の違いについて述べよ
③ 局所麻酔薬の頻度依存性作用(frequencyor‐use‐dependent effect)について述べよ
④ 局所麻酔薬の構造的特徴と主な薬物について述べよ


① 局所麻酔薬の使用目的と適用方法

•  局所麻酔薬は局所に適用して知覚神経の伝導を阻害し、主に痛感を遮断する目的で歯科治療・簡単な外科治療・抗不整脈などに使用される。その適用方法には、粘膜等に塗布などを行う表面麻酔・手術部位周辺に注射し薬物を直接作用させる浸潤麻酔・神経内やその周囲に注射してその神経の支配領域を麻痺させる伝達麻酔・脊髄くも膜下腔に注入しその支配下の広領域を麻痺させる脊髄麻酔などがある。また、局所麻酔薬は局所に高濃度の状態で留めておく必要があり、血流による拡散を防ぐためエピネフリンなどの血管収縮薬と併用される。

② 局所麻酔薬の作用機序と知覚神経の感受性の違い

• 局所麻酔薬は神経軸索のNaチャネルに内側から直接作用し、Na⁺の流入を防ぐ。その結果、活動電位の上昇は抑えられ、神経伝導は遮断される。また、一般に神経線維の局所麻酔薬に対する感受性は、細い線維ほど高く、無髄線維は有髄線維より高い。よって、局所麻酔薬により遅く鈍い痛み(細い無髄C線維)、速く鋭い痛み・温覚(細い有髄Aδ線維)、触覚(太くて有髄のAβ線維)、深部感覚、骨格筋の緊張・随意運動の順に麻痺していく。


③ 局所麻酔薬の頻度依存性作用(frequency‐or‐use-dependent effect)

• 局所麻酔薬の遮断強度が、神経がどれだけの頻度(frequency)で、あるいはどのくらい前もって刺激されていたか(つまりどれだけ最近に使われていたか(use))によって異なること。つまり、興奮していない静止期の神経は、頻繁に刺激されている神経よりも局所麻酔薬に対する感受性が低くなるが、あらかじめ高頻度で刺激されていると、局所麻酔薬の遮断効果は増強されるということ。
  ( Na⁺チャネルが開いた状態のときのみ、プロトン型の局所麻酔薬が結合でき、Na⁺チャネルが不活性化した状態ほど局所麻酔薬は強く、しかも持続性に結合できるためと考えられている。 )

④ 局所麻酔薬の構造的特徴と主な薬物

• 局所麻酔薬は脂溶性の芳香環グループと親水性のアミングループがエステルまたはアミド結合で繋がり、細胞膜を透過するためにある程度の脂溶性を持つ。その多くは弱塩基で、イオン化(親水性)・非イオン化(脂溶性)が混在し、一般に脂溶性が高いほうが強力である。炎症部位ではpHが下がっているので効きにくくなると考えられている。代表的な薬物としてコカの葉に含まれるコカインがあり、その他プロカイン、リドカイン、テトラカイン、ブピバカイン、ロピバカインなどがあり、

2014年9月13日土曜日

非アドレナリン非コリン作動性神経系

非アドレナリン非コリン作動性神経系


① 神経伝達物質としてのATP(アデノシン三リン酸)の作用について述べよ
② 一酸化窒素(NO)について述べよ
③ 神経ペプチドについて述べよ




① 神経伝達物質としてのATPの作用

• ATPは、自律神経や中枢神経終末のシナプス小胞に他の神経伝達物質と高濃度に共存し、神経インパルスにより、シナプス小胞から開口分泌によって放出される。ATPはシナプス後膜のATP受容体P2Xに働き、迅速なシナプス伝達を仲介し、またATP受容体P2Yに働きシナプス伝達を多様に変調させる。ATPは血管拡張作用により各種組織の血流を増加させたり、神経因性疼痛を引き起こしたりする。また、ATPが加水分解されて生成したアデノシンも情報伝達物質として作用し、神経伝達物質の遊離阻害や冠血管弛緩作用を持つ。




② 一酸化窒素(NO)

• NOは血管内皮弛緩因子(EDRF)として同定された最小の情報伝達物質である。ラジカル構造を持ち、半減期は短い。常温で気体であり、脂溶性で細胞膜を自由に通過するため、細胞内に貯蔵できず、産生されると直ちに拡散し、細胞膜をこえて周辺の細胞に速やかに浸透する。NOはNO合成酵素(NOS)によりL‐アルギニンと酸素からL‐シトルリンとともに生成される。細胞質に常在するnNOS(神経型)とeNOS(血管内皮型)は細胞内Ca²⁺濃度によって調節されシナプス可塑性の維持や血小板凝集抑制などの機能を持つ。iNOS(誘導型)はマクロファージや好中球による殺菌作用に関与している。NOは可溶性グアニル酸シクラーゼの内因性活性化因子で、cGMP産生を増加させ、血管拡張などの多様な反応を引き起こす。




③ 神経ペプチド

• 神経ペプチドは神経伝達物質として働き、ニューロン内に低分子伝達物質と共存している。細胞体で合成された神経ペプチド前駆体はゴルジ体でプロセシングを受けながら、神経終末に運ばれ低分子伝達物質とは異なる小胞に貯蔵され、遊離させるためには高頻度刺激が必要となる。サブスタンスPはカプサイシンにより遊離され痛覚に関与し、血管透過性の亢進、平滑筋収縮などの作用を持つ。ニューロペプチドYは中枢では摂食促進、末梢では血管収縮などの作用を持つ。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)はG蛋白質共役型受容体を持ち、知覚・統合運動機能に重要な働きがあり、血管拡張作用などを持つ。他には鎮痛や腸管収縮抑制作用を持つエンドルフィン・ダイノルフィン・エンケファリンもある。

2014年9月6日土曜日

コリン作動性神経系

コリン作動性神経系

① アセチルコリンの生合成について説明せよ。
② 神経伝達が終了したアセチルコリンはほかの神経伝達物質とは異なるメカニズムでシナプス間隙から取り除かれる。そのメカニズムを他の神経伝達物質と比較して説明せよ。また、最近話題になっているメタミドホスと関連があれば、それも説明せよ。
③アセチルコリンを神経伝達物質とする末梢神経系を挙げ、その神経系で利用されるアセチルコリン受容体をそれぞれ説明せよ。


④ ムスカリン受容体とニコチン受容体について、それらの存在部位を説明せよ。また、ムスカリン受容体遮断薬が消化管および循環系に及ぼす作用を説明せよ。
⑤ 小腸に存在するアセチルコリンの受容体について説明せよ。
⑥ アセチルコリン受容体の作用薬と遮断薬について説明せよ。



① アセチルコリンの生合成

• アセチルコリンはコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)によりアセチルCoAとコリンから細胞質で合成される。この反応の律速段階はコリンの取り込みである。ChATは細胞体で合成され軸索輸送によって運ばれて、神経終末の細胞質に存在する。アセチルCoAはミトコンドリア内膜で主にピルビン酸脱水素酵素により合成され、細胞質に運ばれる。コリンは神経系では合成されず、アセチルコリンの分解産物や膜のホスファチジルコリンが終末内に取り込まれる。生合成されたアセチルコリンは、小胞内から外へのH⁺の逆輸送と共役して小胞内に取り込まれる。


② アセチルコリンの代謝とメタミドホス

• アセチルコリン以外の神経伝達物質(例えば、セロトニンやカテコラミン)は、神経終末から放出され、神経伝達を終えた後、そのままの形で神経終末へ再取り込みされることで、シナプス間隙から取り除かれる。一方、アセチルコリンは、神経伝達を終了すると、そのままの形で再取り込みされず、コリンエステラーゼによってコリンと酢酸に速やかに加水分解され、コリンは神経終末に取り込まれて再利用される。 有機リン系殺虫剤のメタミドホスは、コリンエステラーゼの不可逆的な阻害薬であるため、シナプス間隙からアセチルコリンが取り除かれないままになり、興奮が連続して伝えられ続ける状態となる。よって、神経生理機能に障害を与える。




③ アセチルコリンを伝達物質とする末梢神経系と受容体

• アセチルコリンを伝達物質とする末梢神経系には、運動神経・交感神経節前線維・副交感神経節前線維・副交感神経節後線維・汗腺支配交感神経節後線維などがある。運動神経 には筋肉型ニコチン受容体NMが、交感神経節前線維・副交感神経節前線維 には(末梢)神経型ニコチン受容体NN がある。また、副交感神経節後線維・汗腺支配交感神経節後線維にはムスカリン受容体Mがある。なお、ニコチン受容体は二つのサブタイプを持つイオンチャネル型受容体であり、ムスカリン受容体は五つのサブタイプを持つGタンパク質型の受容体である。


④ ムスカリン受容体とニコチン受容体の存在部位・ムスカリン受容体遮断薬が消化管および循環系に及ぼす作用

• ムスカリン受容体Mは副交感神経節後線維や汗腺支配交感神経節後線維に存在する。ニコチン受容体は、運動神経終末の神経筋接合部に筋肉型ニコチン受容体NMが、交感神経節前線維や副交感神経節前線維に神経型ニコチン受容体NNが存在する。
• 消化管にはムスカリン受容体遮断薬は消化管緊張の低下と運動の減少作用を持ち、消化管潰瘍や胃腸炎などの治療に用いられる。また、循環系にはムスカリン受容体遮断薬は少量で徐脈から頻脈にする作用を持ち、迷走神経過興奮による徐脈や迷走神経反射の抑制に用いられる。


⑤ 小腸に存在するアセチルコリンの受容体

• 小腸にはムスカリン受容体M3とM2がある。ベサネコールなどのムスカリン受容体作用薬を用いると、小腸は収縮し蠕動運動が亢進し、消化管麻痺などの治療効果がある。一方、ブチルスコポラミンなどのムスカリン受容体遮断薬を用いると、消化管緊張の低下と運動の減少が起こり、消化性潰瘍や腸炎などの治療効果がある。

⑥ アセチルコリン受容体の作用薬と遮断薬


• コリン作用薬には消化管運動を促進するベサネコールや緑内障治療薬のカルバコール・ピロカルピンがある。コリン作用薬にはコリンエステラーゼ作用薬もあり、重症筋無力症や排尿障害治療薬のネオスチグミンやアルツハイマー病治療薬のドネペジルがある。サリンなどの不可逆的阻害薬は強い毒性を持つ。筋肉型ニコチン受容体遮断薬は末梢性筋弛緩薬として臨床適用され、拮抗型としてd‐ツボクラリンが、脱分極型としてサクシニルコリンがある。 神経型ニコチン受容体遮断薬には自律神経遮断薬のヘキサメトニウムがある。 ムスカリン受容体遮断薬には、散瞳薬や不可逆的コリンエステラーゼ阻害薬の解毒に使われるアトロピンや胃潰瘍治療などに使われるブチルスコポラミンがある。

2014年8月30日土曜日

アドレナリン作動性神経系

アドレナリン作動性神経系

① この神経における神経伝達物質の生合成、貯蔵、遊離、再利用、代謝について説明せよ。
② この神経が血管平滑筋を支配している場合、どのような受容体を介して血管平滑筋に作用するか。また、受容体の情報伝達機構や拮抗薬についても説明せよ。
③ α受容体のサブタイプ、作用薬と遮断薬について述べよ
④ β受容体のサブタイプ、作用薬と遮断薬、臨床適用について述べよ



① 神経伝達物質の生合成・貯蔵・遊離・再利用・代謝

• 神経終末に能動輸送で取り込まれたチロシンは細胞質でドーパーを経てドパミンまで変換される。チロシン水酸化酵素が全体の律速段階である。ドパミンは小胞モノアミントランスポーター(VMAT)により、シナプス小胞に取り込まれ、小胞内でノルアドレナリン(NA)に変わり、貯蔵される。シナプス小胞はシナプス膜にドッキングし、細胞内Ca²⁺濃度が上昇すると開口してNAが遊離する。遊離したNAはシナプス後膜や前膜のアドレナリン受容体に作用する。NAは大部分がシナプス終末や後膜に取り込まれ、一部は代謝される。シナプス終末に取り込まれたNAはVMATによりシナプス小胞へ取り込まれ再利用される。また、NAは細胞内ではMAOによって、細胞外ではCOMTによってVMAに代謝される。


②どのような受容体を介して血管平滑筋に作用するか・その受容体の情報伝達機構や拮抗薬

• 血管平滑筋にはアドレナリンα1受容体があり、この受容体に作用すると血管収縮が起こり血圧が上昇する。α1受容体はG蛋白質共役型受容体であり、アゴニストが結合すると三量体のG蛋白質のαサブユニットが分離しホスホリパーゼCを活性化する。このホスホリパーゼCは細胞内のIP₃(イノシトール三リン酸)やDAG(ジアシルグリセロール)を増加させ、細胞内のCa²⁺の放出を促進する。α1受容体の拮抗薬としてはプラゾシンやウラピジルがあり、降圧作用や前立腺弛緩作用を持つ。



③ α受容体のサブタイプ・作用薬と遮断薬

• α受容体にはα1・α2受容体がある。α1受容体は主に血管平滑筋に存在し、血管収縮などの作用を持つ。作用薬にはフェニレフリンやメトキサミンがあり、低血圧に用いられる。選択的遮断薬にはプラゾシンやウラピジルがあり、降圧作用や前立腺弛緩作用を持ち高血圧や排尿障害に用いられる。α受容体非選択的遮断薬にはフェントラミンがあり、褐色細胞腫の高血圧に用いられる。α2受容体はシナプス前膜に存在する自己受容体で神経伝達物質遊離抑制(負のフィードバック)などの作用を持つ。作用薬にはクロニジンやメチルドパがあり、高血圧に用いられる。α2受容体選択的遮断薬は臨床的にはほとんど利用されない。



④ β受容体のサブタイプ・作用薬と遮断薬・臨床適用

• β受容体にはβ1・β2・β3受容体がある。β1受容体は主に心筋に存在し、心拍増加・心収縮力増大などの作用を持つ。作用薬にはドブタミン・デノパミンがあり心筋収縮力を増強する。β2受容体は肺・肝臓・平滑筋に存在し、平滑筋弛緩・グリコーゲン分解などの作用を持つ。 作用薬には気管支喘息治療薬のプロカテロールや子宮弛緩薬のリトドリンがある。β受容体の持続的刺激は脱感作しやすい。非選択的β受容体遮断薬にはプロプラノロールやチモロールがある。心拍出量低下・レニン遊離抑制などの作用を持ち、高血圧・狭心症・不整脈に適用されるが、気管支喘息患者には禁忌である。選択的β1受容体遮断薬にはアテノロールがあり、気管支喘息患者の高血圧・狭心症・不整脈の治療に適用することができる。