2014年11月29日土曜日

抗てんかん薬・中枢性筋弛緩薬

抗てんかん薬・中枢性筋弛緩薬


① てんかんとはどのような病気であるか、またその原因について述べよ。
② てんかん発作の分類について述べよ。
③ てんかん治療薬についてどの発作に有効なのかとあわせて述べよ。
④ 中枢性筋弛緩薬について述べよ。





① てんかんとはどのような病気であるか・てんかんの原因

てんかんとは脳神経系(大脳のニューロン)の過剰な発火により、反復性の発作(てんかん発作)を起こす慢性の脳疾患である。各発作により特徴的な脳波が見られ、てんかん患者の脳波は正常時もてんかんではない人と異なり、同じ神経内で形成される回路である異所性回路が見られる。てんかんの原因は多種多様である。イオンチャネルや神経伝達物質に関連する遺伝子異常が示唆され、脳の器質的変化を伴う症候性(続発性)のもの、脳の器質的変化を伴わない原発性(突発性)のもの、原因疾患が不明な潜在性のものがある。


② てんかん発作の分類

てんかん発作は大脳皮質全体に渡り明確な焦点のない全般発作と大脳の限定された部分に焦点がある部分発作がある。全般発作には強直間代発作(大発作)・欠神発作・脱力発作などが含まれ、部分発作には複雑部分発作(精神運動発作)と単純部分発作がある。大発作は突然の意識消失とともに、強直間代痙攣発作が起こり、1 分間前後発作が持続する。治療薬にはフェニトイン・フェノバルビタールなどを用いる。欠神発作は痙攣を伴わず、突然出現し突然回復する数秒から数十秒の意識消失発作で、動作や会話が急に止まり意識がなくなる。治療薬にはエトスクシミド・バルプロ酸などが用いられる。脱力発作は突然の筋緊張の低下で意識消失を伴わない発作である。
複雑部分発作は意識障害を伴う部分発作で、数十秒から数分間持続し、ほとんどが自動症を伴う。単純部分発作は意識障害がなく焦点となった脳部位の障害が現れる。部分発作の治療薬にはカルバマゼピン・ゾニサミドなどが用いられる。



③ てんかん治療薬

フェニトインは古くから抗てんかん薬として使用され、部分発作や全般強直間代発作に有効であるが、欠神・脱力発作には無効である。眼球振盪・複視などの副作用がある。カルバマゼピンは部分発作に有効で複雑部分発作の第一選択薬であるが、欠神・脱力発作には無効である。双極性うつ病にも有効である。興奮性シナプス伝達抑制、GABAの作用増強をもたらす。複視・運動失調などの副作用がある。ゾニサミドは部分発作や全般強直間代発作に有効で難治症例にも効果がある。エトスクシミドは欠神発作の第一選択薬であり、T型Caチャネルを阻害する。全般強直間代発作・脱力発作には無効である。バルプロ酸は欠神発作を含む全般発作に有効であり、躁うつ病や偏頭痛予防効果もある。Kチャネルに作用して興奮性を抑制する。悪心・肝障害などの副作用がある。フェノバルビタールは部分発作や全般強直間代発作に有効であり、催眠作用もあるが、それより低用量で抗痙攣作用がある。プリミドンはフェノバルビタールのプロドラッグである。クロバザムはベンゾジアゼピン誘導体で、他の抗てんかん薬と併用する。難治性のてんかんに比較的有効である。


④ 中枢性筋弛緩薬

中枢性筋弛緩薬は神経筋接合部や上位運動中枢へは作用せずに、脊髄における多シナプス性反射を抑制して筋弛緩をさせる。バクロフェンはGABAB作動薬であり、単・多シナプス反射を抑制する。サブスタンスP遊離を抑制して鎮痛作用がある。脳血管障害などに使用される。チザニジンはα2アドレナリン受容体作動薬であり、多シナプス反射を抑制する。侵害伝達を抑制して鎮痛作用がある。腰痛などに使用される。エペリゾンは多シナプス反射を抑制する。筋紡錘感度を低下させたり、Ca拮抗と亣感神経系抑制により降圧させたりする。

2014年11月22日土曜日

催眠・鎮静薬

催眠・鎮静薬


① 睡眠及び夢について述べよ。
② 催眠・鎮静薬について述べよ。
③ ベンゾジアゼピン受容体に対するインバースアゴニストについて述べよ。





① 睡眠・夢

睡眠の生理については不明な点が多く、古来研究対象となっている。脳幹網様体→視床→大脳皮質が意識水準を保ち、この活動低下が傾眠をもたらす。ノルアドレナリン・セロトニン・ドパミン神経系も睡眠に関与している。睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、普通の睡眠ではレム睡眠とノンレム睡眠を約1 時間半の周期で繰り返している。レム睡眠は亣感神経系が亢進し脳波では覚醒状態であり、ノンレム睡眠は副亣感神経系が亢進し脳波は徐波である。睡眠にはアデノシン・メラトニン・オレキシンなども関与しており、覚醒から突然レム睡眠となるナルコレプシーはオレキシン含有神経の選択的な細胞死が原因である。熟眠できずに日中に眠気に襲われる睡眠時無呼吸症候群は事故との関連で社会問題化し、またうつ病患者の初期症状は不安や睡眠障害である。夢はそ
のほとんどをレム睡眠時に見ていて、翌朝覚えているのは、最後のレム睡眠時の夢である。古くから研究対象とされ、記憶に関与していると考えられている。



② 催眠・鎮静薬

不眠症には入眠障害・中途覚醒・熟眠困難がある。催眠薬とは睡眠と似た中枢神経抑制状態を起こす薬のことであるが、完全に自然な眠りを誘起する薬はなく、長期使用は避けるべきで、連用中止によりリバウンドが起こることがある。バルビツール酸誘導体はGABAA受容体に作用し、抑制性神経機能を亢進させ、興奮性シナプス伝達を抑制することで強い催眠と急激な眠りをもたらす。しかし、バルビツール酸誘導体には強い依存性や過量による急性中毒などの欠点があるため、現在催眠薬にはベンゾジアゼピン(BDZ)誘導体が汎用されている。また、チオペンタールは麻酔前投与薬、フェノバルビタールは抗てんかん薬として使用されている。ベンゾジアゼピン誘導体は安全で鎮静・催眠・抗不安などの作用を持つ。GABAA受容体に作用し、抑制性神経伝達を増強させ、自然に近い眠りを誘発する。倦怠感や刺激応答性の低下などの副作用がある。ブロチゾラム・トリアゾラム・クアゼパム・ニトラゼパムなどがあり、ゾルピデムはBDZ構造ではないが、BDZ受容体に作用する。古くから、ブロマイド・抱水クロラール・パラアルデヒドなどが催眠薬として使用されてきた。1960年頃に奇形児で問題となったサリドマイドも催眠薬であり、最近その作用が見直され他疾患の治療に使用され始めている。

③ ベンゾジアゼピン受容体に対するインバースアゴニスト

GABAA受容体複合体の一部をなすベンゾジアゼピン受容体は、内因性リガンドなどの影響で一部が常時活性化し、アゴニスト非存在下では活性型と不活性型が平衡状態にある。BDZ受容体のアゴニストは、活性型受容体に強い親和性をもち活性型を安定化することで、平衡を活性型へずらしてシグナルを増幅する。これに対してBDZ受容体のインバースアゴニストは、不活性型受容体に強い親和性をもち、平衡を不活性型にずらしてシグナルを抑制する。フルマゼニルなどのBDZ受容体のアンタゴニストは、活性型・不活性型どちらの受容体にも結合するため、アゴニスト,インバースアゴニスト双方のベンゾジアゼピン受容体への結合を阻害し、それぞれのはたらきを抑制する。

2014年11月15日土曜日

全身麻酔薬

全身麻酔薬


① 全身麻酔薬の特徴と臨床適用について述べよ。
② 全身麻酔薬の作用機序について述べよ。
③ 主な全身麻酔薬とその作用について述べよ。



① 全身麻酔薬の特徴と臨床適用

外科的手術に必須な全身麻酔の条件は睡眠(無意識)、鎮痛および筋弛緩(不動化)である。全身麻酔ではこれらを可逆的に、任意の時間だけ得られることが望まれる。静脈注射による静脈内麻酔と肺からの吸入による吸入麻酔が一般的である。初期には全身麻酔薬として笑気(亜酸化窒素)・エーテル・クロロホルムが用いられた。全身麻酔薬は中枢を非特異的に抑制するが、一様に抑制するわけではなく、下行性に進行し、大脳皮質→大脳基底核→小脳→脊髄→延髄の順に抑制する。麻酔深度には第Ⅰ期から第Ⅳ期まであり、手術適応期は第Ⅲ期の第2・3相である。麻酔深度が第Ⅳ期になると呼吸停止・血圧低下が起こり死に至るので、麻酔深度を的確に判断する必要がある。麻酔前投与薬には、抗不安薬・鎮静薬・鎮痛薬・副亣感神経遮断薬・制吐薬・筋弛緩薬などがある。


② 全身麻酔薬の作用機序

古くから多くの仮説が提唱されているが、実験証拠がありすべての現象を説明できるものはない。意識消失、鎮痛、運動・反射の抑制、記憶喪失などの作用強度や脳での作用点は個々の麻酔薬によって異なり、一般的な拮抗薬は存在しない。油/ガス分配係数と麻酔作用が相関を示すというリポイド説は、立体特異性が無く、麻酔作用を持つ分子構造の多様性、拮抗薬が無く、水溶性が高い分子の作用発現が遅いことなどが説明できる。酸化的リン酸化の阻害・ATPase活性の抑制によるとするエネルギー代謝・利用抑制説や、麻酔薬の標的は蛋白質でシナプス伝達に作用するという蛋白質説もある。GABAA受容体に作用し、グルタミン酸受容体のNMDA受容体やアセチルコリン受容体のニコチン受容体を抑制するなどの興奮性シナプス伝達の抑制によるとも考えられている。


③ 主な全身麻酔薬とその作用

全身麻酔薬には用量の増減が容易な吸入麻酔薬と即効性の静脈内麻酔薬がある。吸入麻酔薬には揮発性のハロタン・セボフルラン・イソフルラン、ガス性の亜酸化窒素(笑気)があり、静脈内麻酔薬にはプロポフォール・ケタミンがある。ハロタンは局所刺激性がないが、鎮痛作用が弱いので笑気と併用する。不整脈を誘発し、肝機能を抑制する。セボフルラン・イソフルランは導入・回復が速やかで、肝障害や不整脈誘発はハロタンより弱い。亜酸化窒素は強力な鎮痛作用を持つが、手術適応期になりにくいので他の全身麻酔薬と併用し、低酸素に注意する。プロポフォールは中枢神経におけるGABAA受容体に作用する。導入・回復が速やかで、術後嘔吐などの不快感が尐ない。麻酔の維持にオピオイドや笑気を併用し、血圧を低下させる作用がある。乳濁注射液なので凍結後は使用不可である。ケタミンはNMDA受容体拮抗薬として作用し、解離型麻酔薬とも呼ばれる。強い鎮痛作用を持ち、回復に時間がかかり、回復後も記憶喪失作用がある。乱用により麻薬指定がされている。

2014年11月8日土曜日

中枢神経系の神経伝達

中枢神経系の神経伝達


① グルタミン酸の中枢神経系における役割とその生合成・貯蔵・取り込みについて述べよ。
② グルタミン酸受容体について述べよ。
③ GABA(γ-アミノ酪酸)の役割とその分布・生合成・貯蔵・遊離・取り込みについて述べよ。
④ GABA 受容体について述べよ。
⑤ GABA は脳内の主要な抑制性神経伝達物質であり、GABAA 受容体は多くの中枢神経系薬物の作用点となっている。 GABAA 受容体に作用して臨床効果を発揮する薬物(群)を列挙し、薬理作用を説明せよ。また、共通の作用がありながら、薬理作用や臨床応用が大きく異なる理由について考察しなさい。
⑥ 以下の囲み記事はギャバ入り食品を説明した、あるインターネットサイトの文章(一部改変)である。著者が、抑制性神経と個体レベルでの鎮静を混同していることを含め、全体的に明らかに間違った内容となっている。以下の設問に答えなさい。


あなたはチョコレートを食べて、ホッとしたことはありませんか?それはチョコレートに含まれるギャバの効果です。ギャバ(GABA)の正式名はγアミノ酪酸といい、脳内で抑制系の神経伝達物質としてはたらいており、ギャバを摂ることでイライラなどをやわらげる効果があります。ストレスで痛めつけられた神経を鎮静してくれたり、精神の安定にも役立ちます。睡眠障害、自律神経の失調、うつ、更年期の抑うつや初老期の不眠といった症状の改善にも効果が期待されています。


(1)一つ一つの興奮性、抑制性神経の活動と個体レベルでの興奮、鎮静との関係について説明しなさい。
(2)経口摂取したGABA の脳内移行はほとんどないが、もし移行したとしたら、どのような症状が現れると考えられるか。また、そう考えた理由も述べなさい。
(3)うつ病患者で脳内GABA 濃度が上昇したときに起こることを予想しなさい。




①グルタミン酸の役割と生合成・貯蔵・取り込み

グルタミン酸は中枢神経系における主要な興奮性神経伝達物質であり、脳神経系の情報伝達・可塑性・形成に重要な役割を担っている。グルタミン酸はα-ケトグルタル酸・アスパラギン酸・グルタミンから生成される。グルタミン酸の生合成は前駆物質であるグルタミンの蓄積により一部調節され、さらに、最終産物により抑制性制御を受けている。生合成されたグルタミン酸は、ATP 依存性でプロトン勾配を利用する小胞グルタミン酸トランスポーター(VGLUT)によりシナプス小胞に取り込まれる。シナプス間隙に放出されたグルタミン酸は神経終末にそのまま取り込まれる以外に、グリア細胞に取り込まれ、グルタミンとなり遊離される。グルタミンは神経でグルタミン酸に変換される。細胞外のグルタミン酸濃度が長時間上昇すると傷害性を示す。興奮性神経細胞は高濃度のグルタミン酸を含むので、傷害を受けた細胞からグルタミン酸が遊離しさらに周囲の細胞を傷害させる。



② グルタミン酸受容体

グルタミン酸受容体にはイオンチャネル型と代謝型があり、イオンチャネル型はNon-NMDA型とNMDA型に分類される。Non-NMDA型はさらにAMPA型とKainate型に分類される。AMPA受容体はNa⁺・K⁺を通す非選択的陽イオンチャネルであり、一部はCa²⁺透過性を有し、速い興奮性神経伝達の大部分を担っている。NMDA受容体はNa⁺・K⁺・Ca²⁺非選択性イオンチャネルである。静止膜電位付近ではMg²⁺により抑制されているが、シナプス後膜が大きく脱分極するとMg²⁺による抑制が解除され活性化する。遅い興奮性神経伝達を担い、シナプス可塑性や神経回路構築に重要な役割を果たし、虚血などによる神経傷害にも関与している。NMDA受容体はグリシンやポリアミンにより増強され、フェンシクリジンやケタミン結合部位など多くの修飾物質が知られている。代謝型はイノシトールリン酸やG蛋白質と共役し、シナプスやグリア細胞に存在し、広範な作用を示す。


③ GABAの役割と分布・生合成・貯蔵・遊離・取り込み

GABAは興奮性伝達物質によるシナプス伝達を抑制する神経伝達物質として重要な役割を担い、多くの中枢抑制薬の作用点である。GABAは脳内に広く分布し、黒質・淡蒼球などに特に多い。末梢の膵ランゲルハンス島β細胞などにも分布し、末梢では血圧低下作用などを持つ。GABAはグルタミン酸からGAD(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)により合成される。ビタミンB6はGADの補酵素であり、ビタミンB6欠乏によってGABAは減尐する。GABAは小胞GABAトランスポーター(VGAT)により神経終末の扁平なシナプス小胞内に貯蔵される。GABAは神経インパルスによってCa²⁺依存性にシナプス間隙に遊離されるが、開口分泌によらない遊離が多い。シナプス間隙に遊離されたGABAは神経終末およびグリア細胞へ急速に取り込まれる。


④ GABA受容体

GABA受容体にはGABAA受容体・GABAB受容体・GABAC受容体がある。GABAA受容体はCl⁻チャネルと共役し、GABAが結合するとCl⁻が流入して神経細胞が過分極し、興奮性入力による脱分極効果が抑制される。ベンゾジアゼピンやバルビツール酸により増強され、ビククリンやピクロトキシンにより抑制され、また、てんかんや痙攣発現と関係がある。GABAB受容体は主にシナプス前終末に存在し、K⁺チャネルの活性化による過分極を引き起こし、GABAをはじめとする多くの神経伝達物質の遊離を抑制する。作用薬はバクロフェンである。

⑤ GABAA受容体に作用する薬物

●ベンゾジアゼピン
GABAA受容体に作用し、Clチャネルの開口頻度を増強することで、Cl⁻透過性を高めて過分極させ、活動電位の発生を抑制する。抗不安薬・鎮静薬・催眠薬・抗けいれん薬・筋弛緩薬として使用されている。

●バルビツール酸
GABAA受容体に結合しClチャネルを開口することですることで抑制性神経機能を亢進し、かつGlu受容体も弱く抑制することで興奮を抑制する。鎮静薬・催眠薬・抗けいれん薬・静脈麻酔薬として使用されている。

●アルコール
抑制性GABAA受容体の作用を増強し興奮性NMDA型Glu受容体を抑制する。中枢神経細胞の感受性の違いに応じて作用は下行性に進行するが、中枢神経系の脱抑制による興奮期の持続が全身麻酔薬よりも長い。また、手術期から延髄麻痺に移行するまでの期間は逆に全身麻酔薬より短く、速やかに呼吸機能,心拍機能を停止させて死に至らしめる。



●全身麻酔薬
エンフルランやプロポフォールはGABAA 受容体を活性化することで麻酔作用を発現する。全ての全身麻酔薬がGABAA 受容体に作用するわけではない。


これらはすべて同じGABAA 受容体に作用する。このうち、アルコールと揮発性麻酔薬は作用部位も同一だが、これとベンゾジアゼピン、バルビツール酸の作用点はそれぞれ異なる。また、それぞれ受容体との親和強度も異なる。これらの要因から、それぞれの薬物のCl チャネルの開口作用の有無,開口頻度の増強ないし開口時間の延長の程度に差異が生じることで、薬理作用や臨床応用は異なると考えられる。また、NMDA 型Glu 受容体等、GABAA 以外の受容体への作用の有無も関係すると考えられる。



⑥ GABA 神経系

(1)興奮性神経の活動は、主に興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸を伝達物質として行われる活動で、電位の変化による興奮が伝達される。グルタミン酸の受容体には、イオンチャネル型と代謝型の2 種類がある。これに対して、抑制性神経の活動は、主にGABA を神経伝達物質として、神経細胞の電位変化を抑えて、興奮の伝達を抑制する。GABA 受容体には、GABAA、GABAB の2 種類がある。GABAA はCl チャネルと共役していて、細胞の電位変化を抑え、神経伝達物質の遊離を抑制する。GABAB は、K チャネル活性化による過分極を引き起こす。また、個体レベルでの興奮・鎮静は亣感神経と副亣感神経の拮抗によって制御されている。そのため、興奮性の活動を行っている神経と、抑制系によって抑制される神経がいずれに属するかによって、個体レベルでの
興奮と鎮静が決まっている。

(2)GABA は、神経細胞の電位変化を抑制したり、過分極を引き起こしたりすることで、神経細胞の興奮伝達を妨げる。経口由来のGABA が移行して濃度が高くなると、神経系の活動が抑制されることに加えて、GABA 受容体作動薬に、催眠・鎮静効果があることから、催眠・鎮静効果があると考えられる。

(3)ノルアドレナリンやセロトニンなどの脳内モノアミンの低下がうつ病の原因であると考えるモノアミン仮説が正しいとすると、神経伝達物質の遊離・神経細胞の興奮伝達を抑制するGABA は、うつ病の症状を重くすると考えられる。

2014年11月1日土曜日

強心薬・心不全治療薬

強心薬・心不全治療薬

① 心不全とはどのような病気であるか・慢性心不全の代償機構について述べよ
② 強心配糖体の作用機序と副作用について述べよ
③ cAMPを増加させる強心薬について述べよ
④ その他の心不全治療薬について述べよ




① 心不全とは・慢性心不全の代償機構

• 心不全は心筋障害などによる心機能低下により、心臓が適切に末梢組織に血液を供給できない状態で、心筋梗塞・拡張型心筋症などの器質的心疾患の結果として生じる。慢性心不全により、心臓に様々な代償機構が働く。レニン‐アンジオテンシン系の亢進により腎臓でのNaと水の再吸収量が増加し、循環血液量の増大で心拍出量が増加(Frank‐Starling機構)したり、交感神経の活性化により心拍数が増加し、心拍出量が増加したり、末梢細動脈の収縮により、脳・腎臓などの中央循環を維持したりする。これらの代償機構により浮腫・不整脈・末梢組織の酸素不足や心筋のリモデリングを引き起こし、心機能がさらに悪化し悪循環に陥る。




② 強心配糖体の作用機序と副作用

• 強心配糖体の代表的なものとして、ジギタリスがある。これは、Na+/K+‐ATPaseを阻害することで、細胞内Na⁺濃度を上昇させる。これにより、Na⁺‐Ca²⁺交換系の逆交換(Ca²⁺の流入)を促進し、心筋細胞内Ca2+濃度を上昇させ、心収縮力の増強と心拍数低下を引き起こし、心機能効率が良くなる。治療域濃度のジギタリスは、副交感神経緊張を高め、交感神経緊張を下げ、心臓の刺激伝達系を抑制する。ジギタリスにはジギトキシンやジゴキシンがあり、主にジゴキシンが臨床でうっ血性心不全や、心房細動などの不整脈に適用される。しかし、ジギタリスは治療域が非常に狭く、治療域を超えると異所性不整脈、心室性不整脈、消化器症状(悪心、嘔吐、食欲不振)などの重篤な副作用が見られる。



③ cAMPを増加させる強心薬

• 心筋収縮力を増強する目的で、ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害あるいはアデ二ル酸シクラーゼの活性化によってcAMPを増加させ、筋小胞体のCa²⁺含量を増加させる薬が心不全治療に用いられる。β1受容体に作用するカテコラミン類にはドパミン・ドブタミン・デノパミンがあり、心収縮力を増強する。デノパミンはβ1受容体の部分作用薬で脱感作しにくい。PDE阻害薬はPDE阻害によりcAMPの分解を抑制し、β受容体を介さずにcAMPを増加させる。脱感作しにくく、心収縮力増強作用と血管弛緩作用を持つ。アムリノン・ミルリノン・ピモベンダンがある。また、cAMPアナログとしてブクラデシンがあり、これは細胞内でcAMPに変化して心収縮力増強作用、末梢血管拡張による後負荷減少作用を持つ。



④ その他の心不全治療薬

• レニン‐アンジオテンシン系阻害薬のACE阻害薬(エナラプリルなど)やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ロサルタン・カンデサルタンなど)は血管拡張作用による前負荷および後負荷抑制して心不全を改善する。さらに、血管リモデリングを抑制し、心筋保護作用を持つ。アドレナリンβ受容体遮断薬は心不全で過剰に亢進した交感神経作用に拮抗して、突然死を防ぐ。カルベジロールなどが使われるが、用量の設定が難しい。
*急性心不全には利尿薬や亜硝酸化合物を経静脈的に、慢性心不全には強心配糖体・アンジオテンシン系阻害薬・利尿薬を併用して経口的に用いられる。