2014年12月27日土曜日

統合失調症治療薬

統合失調症治療薬


① 統合失調症の特徴と症状について説明せよ。
② 統合失調症とドパミン神経系の異常について説明せよ。
③ 統合失調症治療薬を作用機序により分類して説明せよ。
④ 統合失調症に対するドパミンD2 受容体拮抗薬の有効性と限界について述べなさい。その限界に対処するために用いられるようになった治療薬を2 種類以上挙げ、知るところを述べなさい。




① 統合失調症の特徴と症状

統合失調症の症状は陽性症状と陰性症状,認知症状に大別される。陽性症状では、思考障害や妄想、幻覚が現れ、陰性症状では、思考・会話の貧困、感情平板化、意欲の低下、社会性欠如などが現れる。また、認知症状では、注意保持困難、精神運動機能の遅延、問題解決能力の低下などが現れる。思春期から青年期に発症し、数年かけて進行するが、本人の病識は低い。初期症状としては、周囲からの遊離、社会ルールの不履行、感情鈍麻などがある。統合失調症のクレペリンの分類によると、思春期から進行し感情鈍麻・意欲減退・思考の滅裂などが起こり、予後不良で人格荒廃へと進行する破瓜型、20歳前後での発症が多く興奮と昏迷が起きる緊張型、30~35歳で発症し妄想と幻覚が起こり体系化し確固とした妄想の世界を持つ妄想型がある。症状と遺伝子などの原因が1対1ではなく、遺伝的素因は脆弱因子である。


② 統合失調症とドパミン神経系の異常

陽性症状に有効な治療薬がほとんどドパミンD2受容体の遮断し、その効力と良く相関していることや、ドパミン神経系活性化薬が病状を悪化させたり、統合失調症様の症状を誘発したりすることから、脳内の中脳辺縁系(腹側被蓋野-側坐核)のドパミン神経系の異常興奮が統合失調症の病因であるとする、ドパミン仮説が提唱された。しかし、この仮説にはD2受容体拮抗薬が陰性症状に無効であることや、陽性症状でも無効な場合があること、作用発現までに数週間必要であることなどが問題点である。


③ 統合失調症治療薬の作用機序による分類

統合失調症の治療薬には、D2受容体拮抗薬、セロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)、MARTA、ドパミンD2受容体部分活性薬がある。D2受容体拮抗薬は、陽性症状に有効で、副作用には、錐体外路系障害、遅発性ジスキネジアなどが見られる。クロルプロマジンは、強い鎮静と抗不安作用があり、低温麻酔に使用され、5-HT2、α1、M1、H1受容体も遮断する。副作用には起立性低血圧、悪性症候群がある。ハロペリドール・スピペロンはD2受容体選択性が高く、強い主作用と副作用がある。副作用は悪性症候群である。SDAにはリスペリドンがあり、陰性症状や認知機能低下にも有効であり、錐体外路系障害は弱い。副作用は悪性症候群と遅発性ジスキネジアである。ブロナンセリンも使用され始めている。MARTAは、セロトニン・ドパミン拮抗薬に加えて多くの神経伝達物質受容体に作用するもので、オランザピンやクエチアピンがある。オランザピンは、D2、D4、5-HT2、H1、α1などの受容体拮抗作用を持ち、陰性症状にも有効である。副作用は高血糖、悪性症候群、遅発性ジスキネジアがある。クエチアピンは、D2よりも5-HT2に高親和性を示し、副作用はオランザピンと同様である。いずれも糖尿病には禁忌である。ドパミンD2受容体の部分活性薬にはアリピプラゾールがあり、ドパミンが過剰な部位では抑制し、不足部分では亢進する。陰性症状に有効だが、糖尿病や高血糖患者には注意が必要である。



④ 統合失調症に対するドパミンD2受容体拮抗薬の有効性と限界

ドパミンD2受容体拮抗薬は、中脳辺縁系のドパミンD2受容体を遮断することで、妄想,幻覚といった陽性症状を改善するので統合失調症に対して有効性を持つ。しかし、陰性症状には無効であり、また、中脳黒質経路にも作用することで錐体外路障害等の副作用を引き起こすなどの限界もある。その限界に対処するための治療薬としては、第二世代抗精神病薬のセロトニン・ドパミン拮抗薬がある。これは、D2受容体遮断に加えてセロトニン5-HT2A受容体を遮断することで、陽性症状とともに陰性症状も改善する。また、中脳辺縁系以外ではドパミン遊離を促進し、D2受容体拮抗薬に見られる錐体外路障害等の副作用が尐ない。また、多数の受容体に作用するMARTAもあり、陰性症状にも有効である。さらに、第三世代抗精神病薬とされるアリピプラゾールはドパミンD2受容体の部分活性薬であり、ドパミン過剰の中脳辺縁系ではアンタゴニストとしてはたらいてドパミンを抑制し陽性症状を改善する一方、ドパミン不足の中脳皮質系ではアゴニストとしてはたらいてドパミンを亢進し陰性症状を改善する。

2014年12月20日土曜日

抗不安薬

抗不安薬


① 神経症と心身症について説明せよ。
② 不安障害の症状・原因・治療と抗不安薬について説明せよ。
③ 自閉症・ADHDの症状・原因・治療について説明せよ。



① 神経症と心身症

神経症は心因性の精神障害で器質的な変化を伴わない病態のことである。主なものに不安神経症・ヒステリー・広場恐怖症などがある。不安・緊張・抑うつ・睡眠障害・摂食障害など主に自律神経系が関与する身体症状、不安発作が主症状である。一方、心身症は心理的(社会的)要因により身体臓器に器質的または機能的な障害が認められる病態のことである。ストレスによる胃・十二指腸潰瘍が代表例であり、他にも、循環器系・呼吸器系・内分泌系などに症状が現れることがある。



② 不安障害の症状・原因・治療と抗不安薬

不安障害にはパニック障害や強迫性障害などがある。パニック障害では数秒から数時間持続する前兆がなく急性の激しい恐怖を感じ、息切れ・不整脈・失神・不快感などのパニック発作が起きる。しばしば、先行不安を伴い、広場恐怖症を引き起こし、外出困難となる。遺伝的要因の他、帯状回・前頭前野・側頭葉前部がパニック発作に関与している。自律神経の活性化で発作が起き、GABAA 受容体の低下も原因の1 つではないかと考えられている。治療には5-HT1A 受容体を介するSSRI のパロキセチンやベンゾジアゼピンが使用される。強迫性障害は捨て去ることができない強迫観念と繰り返さずにはいられない行動を特徴とする。強迫は数唱・確認・清浄・逃避に分類され、強迫観念から通常の社会生活が困難になる。遺伝的要因や前頭葉・尾状核の活動増加や溶血性連鎖球菌感染症による自己免疫疾患などが原因だと考えられている。治療にはフルボキサミンなどのSSRI や三環系抗うつ薬のクロミプラミンなどが使用され、行動療法や帯状回切除も有効である。抗不安薬にはタンドスピロンなどの5-HT1A 受容体作動薬やアルプラゾラム・ロラゼパム・ジアゼパムなどのベンゾジアゼピン誘導体が使用される。タンドスピロンはcAMP を減尐させる5-HT1A 受容体の作動薬で鎮静・催眠・抗痙攣・筋弛緩作用はない。動物実験では著効を示し期待されたが、臨床効果はいまいちで、抗不安薬としての使用は副作用の尐ないSSRI に置き換えられつつある。


③ 自閉症・ADHD の症状・原因・治療

自閉症では、コミュニケーション能力の発達障害や想像力の欠如・他人の意図が理解できない・決まった手順や方法に執着するなどの症状がみられる。ほとんどのケースで精神遅滞が起こっているが、高い芸術性を発揮したりすることもある。遺伝的要因が高く、脳の発達障害が原因である。あまり有効な治療薬がなく、治療は行動療法が中心である。ADHD は注意欠陥・多動障害のことで集中することやじっとしていることができない。通常は学校の教室で最初に見つかり、しばしば、攻撃行動・行為障害・学習障害・低い自尊心などと関連している。遺伝的要因やドパミントランスポーターの増加や線条体-前頭前野領域の神経回路異常が原因である。治療には、ドパミン取り込み阻害薬やメチルフェニデートが有効である。メチルフェニデートはADHD やナルコレプシーに有効でアンフェタミン様作用がある。抗うつ薬としても処方されたが、乱用により適用が除外された。

2014年12月13日土曜日

抗うつ薬

抗うつ薬


① うつ病の特徴と症状について説明せよ。
② 薬物療法以外のうつ病の治療法と素質-ストレス仮説について説明せよ。
③ うつ病の生物学的病因についての初期の主要な学説は「モノアミン」学説であった。「モノアミン仮説」が提唱された根拠を説明し、うつ病との関連が特に深いと思われるモノアミンを2つあげなさい。
④ 三環系抗うつ薬とセロトニン選択的取り込み阻害薬の薬理作用と副作用について類似点および相違点を明確にしながら説明しなさい。
⑤ その他の抗うつ薬と抗うつ薬の長期的効果について説明せよ。
⑥ 抗躁病薬について説明せよ。
⑦ セロトニンの生合成と代謝について説明せよ。
⑧ 縫線核について説明せよ。




① うつ病の特徴と症状

うつ病は気分障害の中で一番多く、憂うつ状態が続き、感情の落ち込みだけではなく、日常生活に支障をきたすような身体症状を伴うことが多い。主な症状として、睡眠障害、疲労感、無力感、自殺念慮などがみられる。うつ病にはほとんどがうつ状態のみの単極型と躁状態とうつ状態を繰り返し途中に正常な寛解期のある双極型があり、メランコリー親和型性格や執着型性格の人がうつ病に罹りやすい。病相は単純ではなく、明確な診断基準による分類と治療が必要とされる。女性の方が男性より罹患しやすく、老年者の発症率が高く自殺の原因となることがあり、休む勇気と休ませる気配りが必要となる。原因としては急激な環境変化によるストレスや遺伝的素因、セロトニン・ノルアドレナリン神経系やHPA系の異常、脳由来神経栄養因子(BDNF)の減少などが考えられ、予防にはストレスを貯めない、規則正しい生活、定期的な運動、ポジティブシンキングなどが効果的である。


② 薬物療法以外のうつ病の治療法と素質-ストレス仮説

うつ病の治療法には薬物療法以外には電気痙攣療法(ECT)、断眠療法、高照度光療法、認知行動療法がある。ECTは全身麻酔下で筋弛緩薬を併用し、頭部への通電により人工的に全身痙攣を誘発させる治療法で、重症や薬物抵抗性のうつ病にも効果がある。断眠療法は全断眠やレム断眠が有効だが、やめるとすぐに元に戻ってしまう。高照度光療法は強い光を照射することで、季節性感情障害などに効果がある。認知行動療法は日常生活の行動パターン、考え方、クセなどを改め気分を変える。軽症に有効である。素質-ストレス仮説は遺伝的な素因などにより素質のある人が、発達早期にストレスに暴露されることで、ストレス反応の感受性が増大し、軽いストレッサーに対しても過敏に反応してしまうことがうつ病の原因だとする仮説である。これはストレスに対する個人差を説明でき、HPA系の過剰活動や海馬からの負のフィードバックの崩壊が原因だと考えられている。



③ モノアミン仮説

モノアミン仮説は、うつ病はシナプス間隙のモノアミンであるノルアドレナリン,セロトニンが欠乏することで生じるという説である。ドパミンは無関係である。モノアミンを枯渇させるレセルピンで高血圧治療中にうつ状態になって自殺した例があることやα2受容体作用薬であるメチルドパによってうつ状態が現れること、また、抗うつ薬である三環系抗うつ薬やモノアミン取り込み阻害薬、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO阻害薬)が、モノアミンの間隙濃度を高めることが根拠とされる。問題点としては、抗うつ薬が薬理作用を発現するまで数週間かかることやセロトニン・ノルアドレナリン選択的取り込み阻害薬の奏功が70%であることを説明できないことが挙げられる。


④ 三環系抗うつ薬とセロトニン選択的取り込み阻害薬の薬理作用と副作用

イミプラミン・アミトリプチンなどの三環系抗うつ薬、パロキセチン・フルボキサミンなどの選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)ともに、脳内モノアミンの神経終末への再取り込みを阻害し、モノアミンのシナプス間隙濃度を高めることで抗うつ作用を発現する。三環系抗うつ薬は、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害する効果もあるが、SSRIはセロトニン神経終末に存在するセロトニントランスポーターに特異的に作用するため、セロトニンに対して選択的に取り込み阻害をかけるが、三環系よりやや弱い。副作用に関しては、三環系抗うつ薬はSSRI等と違って選択性が低いために多く、抗コリン作用による口渇,便秘,排尿障害、抗α1作用による低血圧、Na+チャネル抑制による心臓の伝導抑制,抗H1作用による眠気、などがある。他方、SSRIはアドレナリン受容体やアセチルコリン受容体との親和性が低く、副作用が少ないが、肝薬物代謝酵素CYPファミリーを阻害するため、併用する薬の代謝に注意を要する。


⑤ その他の抗うつ薬と抗うつ薬の長期的効果

抗うつ薬には三環系抗うつ薬、SSRIの他に四環系抗うつ薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、モノアミン酸化酵素阻害薬がある。四環系抗うつ薬は抗コリン作用が少ない。ノルアドレナリンの取り込みを阻害するマプロチリンやα2・5-HT2・H1受容体を遮断するミアンセリンなどがある。SNRIにはミルナシプランがあり、セロトニンとノルアドレナリントランスポーターに特異的に作用して再取り込みを阻害する。副作用が尐なく安全であり、効果の発現が速い。モノアミン酸化酵素阻害薬はセロトニン・ノルアドレナリンの酸化酵素であるMAOAを阻害して遊離量を増加させる薬であるが、副作用が多く使用されていない。抗うつ薬は、長期的には自己受容体の強いdown regulationを引き起こすことで結果的に神経伝達効果を短期使用時より上昇させる。また、脳由来神経栄養因子(BDNF)の増加や、海馬における神経新生の増加ももたらす。しかし、抗うつ薬で起こる変化が病気で起こる変化の逆とは限らない。


⑥ 抗躁病薬

躁病は気分爽快・意欲亢進・多弁などだけではなく、社会的逸脱行動や家庭内不適応などの症状があり治療対象となる。炭酸リチウムが治療に用いられる。健常者には作用がなく、躁状態を改善し、予防的効果もある。多くの生理作用を持つが、薬理作用の本体は不明で多くの仮説が提唱されている。振戦、消化器症状、腎機能障害、強調運動障害などの副作用があり、リチウム中毒を起こすこともある。抗けいれん薬のカルバマゼピンも躁病治療に有効である。



⑦ セロトニンの生合成と代謝

セロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン、5-HT)はインドールアルキルアミンであり、ヒトの生体内セロトニンは胃腸管に90%が、血小板に8~9%が、1~2%が松果体・脳神経に存在している。生体内では、トリプトファンがトリプトファン水酸化酵素により5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)に変換され、さらに、5-HTP脱炭酸酵素によりセロトニンへと変換される。セロトニン生合成の律速段階はトリプトファン水酸化酵素であり、この酵素は酸素・基質・補酵素の量で調節され、最終産物によって調節されることはない。セロトニンの唯一の代謝経路はモノアミン酸化酵素(MAO)による脱アミノ反応である。


⑧ 縫線核

セロトニン神経系は縫線核から起始し、縫線核はセロトニン受容体の1種である5-HT1A受容体を持っている。この受容体は、アデニル酸シクラーゼ活性を抑制し、膜に過分極を起こさせることでシナプス伝達を抑制したり、自己受容体としてセロトニン神経活動を抑制したりする。

2014年12月6日土曜日

脂肪族アルコール

脂肪族アルコール


① アルコールの特徴とその体内動態について述べよ。
② アルコールの急性作用について述べよ。
③ アルコールの慢性作用とアルコール依存症の治療について述べよ。
④ 全身麻酔薬とエタノールの薬理作用(作用機序を含む)を比較せよ。




① アルコールの特徴と体内動態

アルコールは古来「酒」として親しまれ、両親媒性をもち医療用には消毒と溶媒として用いられる。GABAA受容体の亢進とNMDA受容体抑制により急性作用として中枢神経系を抑制する。また、慢性作用によりさまざまな障害を引き起こし、アルコール依存症は社会問題になっている。アルコールは消化管・咽頭粘膜・肺などからほぼ完全に吸収され、30分以内に血中濃度がピークに達する。主に肝臓でアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)によって酸化されアセトアルデヒドとなり、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)によって酢酸とアセチルCoAとなり、TCAサイクルで代謝される。ADH・ALDHには個人差・人種差が大きい。高濃度になるとMEOSやP-450などによっても代謝される。


② アルコールの急性作用

アルコールの急性作用の主なものとしてはGABAA受容体亢進とNMDA受容体抑制による中枢神経抑制作用である。抗不安・鎮静や認知・感覚・言語・運動機能の障害や判断力の低下・順行性記憶障害や利尿などを引き起こすが、これらには個人差がある。また、就眠は促進するが、睡眠後期でしばしば覚醒を引き起こすので睡眠薬には不適当である。循環器系への作用により末梢血管が拡張し、発赤・温感が起こる。消化器系の作用により最初は胃酸分泌を増加させる(食前酒)が、悪心・嘔吐を引き起こす。急性毒性には、呼吸抑制・血圧低下・体温低下などがある。


③ アルコールの慢性作用とアルコール依存症の治療

アルコールの慢性作用にはアルコール依存症があり、これはアルコールに対して身体的にも精神的にも依存する症状である。耐性を生じ、熟眠を困難にし、肝臓障害により脂肪変性・肝硬変を引き起こす。その他、消化管や循環器系に作用し、脳機能を低下させるなどさまざまな毒性をもたらす。アルコール依存症の治療には、ALDHの抑制によりアセトアルデヒドが蓄積することで、アルコールに対して非常に不快な副作用を起こす嫌酒薬を用いる。嫌酒薬にはジスルフィラムやシアナミドがあり、シアナミドの方がジスルフィラムよりALDHを特異的に阻害する。また、本人の自覚や家族と社会の支援も治療には重要である。


④ 全身麻酔薬とエタノールの薬理作用(作用機序を含む)の比較

全身麻酔薬は、主に抑制性GABAA受容体の作用増強ないし興奮性グルタミン酸受容体(とくにNMDA型)の抑制に起因する。アドレナリンα2受容体抑制、アセチルコリンニコチン受容体抑制,Kチャネル増強,Naチャネル抑制を介し作用を及ぼすものもある。中枢神経細胞の全身麻酔薬に対する作用は下行性に進行する。麻酔深度の第Ⅰ期は無痛覚期で、第Ⅱ期は興奮期である。第Ⅲ期は手術適応期であり、手術中はこの期の維持が必要となる。第Ⅳ期は延髄麻酔期で、呼吸停止・血圧低下・心停止し、死亡に至る。エタノールもGABAA受容体の亢進・NMDA受容体抑制・下行性に進行など作用機序はほぼ同一と考えられているが、中枢神経系の脱抑制による興奮期の持続が全身麻酔薬よりも長く、手術期へ移行するには血中エタノール濃度を相当上げなければならない。しかし、手術期から延髄麻痺に移行する期間は逆に全身麻酔薬より短く、速やかに呼吸機能・心拍機能を停止させて死に至らしめる(急性アルコール中毒)。このためエタノールは全身麻酔薬と作用は似ているが全身麻酔薬として用いるには適さない。