2014年10月25日土曜日

虚血性心疾患治療薬

虚血性心疾患治療薬

① 狭心症とはどのような病気であるか、またその治療について述べよ
② 労作性狭心症と安静狭心症の成因と治療法の違いについて述べよ
③ 側副血行路を説明せよ。
④ ニトログリセリンの狭心症作用の機序とその他の狭心症治療薬について述べよ
⑤ 心筋梗塞とはどのような病気であるか、またその治療薬・予防薬について述べよ




① 狭心症とは・狭心症の治療

• 狭心症は、冠血流による心筋への酸素供給と心筋の酸素消費のバランスが崩れ、心筋の一部が一過性に酸素欠乏(虚血)状態に陥るために発生する病態である。胸痛発作が特徴で、肩や上肢などにも痛みが放散する。狭心症の治療には心仕事量を低下させ心筋の酸素需要を低下させる・虚血部への血流増加により酸素供給を増加させる・スパスム(冠動脈の痙攣)の寛解、予防・動脈硬化の防止と側副血行路の確保がある。また、心筋梗塞への移行防止も重要である。




② 労作性狭心症と安静狭心症の成因・治療法の違い

• 労作性狭心症は、冠動脈の器質的狭窄により、運動や階段を上るときなどの労作時に増えた心筋酸素需要に見合う冠血流増加がない時に起こる狭心症である。安静狭心症は、冠動脈の攣縮や血栓形成により心筋への酸素供給が不足した時に起こる狭心症である。労作に関係なく、夜間就寝中や早朝の日常動作などで胸痛が生じる。労作性狭心症には心筋の酸素消費量を減らすβ受容体遮断薬が有効で、安静狭心症には冠血管攣縮を抑制するCa拮抗薬が有効である。また、どちらのタイプの狭心症にも硝酸薬は有効である。




③ 側副血行路

• 側副血行路とは、血管の狭窄・閉塞などでの順行性血流不足部位へ血液を供給するために、対側または同側動脈が屈曲・拡張してできた血流路のことで、自然のバイパスといえる。通常の血管径は200μm以下であるが、圧力差により拡張する。血管の狭窄が緩徐に進行すると、側副血行路の発達により梗塞に至らない場合もある。



④ ニトログリセリンの狭心症作用の機序・その他の狭心症治療薬

• ニトログリセリンは体内で脱ニトロ化され一酸化窒素(NO)を遊離する。NOはグアニル酸シクラーゼを活性化し、cGMPの産生を促す結果、細胞内のCa2+濃度が低下するため血管平滑筋が弛緩し、血管拡張を起こさせる。また、全身に投与すると、血液の心臓帰還量(前負荷=静脈への作用)が減少する。
• Ca拮抗薬は強い降圧作用により後負荷(=動脈への作用)を減少させたり、冠血管攣縮を抑制する。ジルチアゼム・ベラパミルなどがある。β受容体遮断薬は心拍数や心筋仕事量を減らし、酸素消費量を減らす。また、血圧降下により後負荷を減少させる。プロプラノロール・アセブトロールなどがある。その他、アデノシンの血管拡張作用を増強するアデノシン作用増強薬のジラゼップ・ジピリダモールがある。



⑤ 心筋梗塞とは・心筋梗塞の治療薬・予防薬

• 心筋梗塞とは、冠循環障害による酸素供給不足が一定期間続くことにより起こる心筋の変性や壊死のことである。粥状硬化巣の破綻による血栓、栓塞などが原因で、壊死部から酵素が遊離したり、激しい胸痛・呼吸困難・吐き気などが症状としてあらわれる。治療にはプラスミノゲンを血栓(フィブリン)溶解作用を持つプラスミンに変換するtPA(組織型プラスミノゲンアクチベーター)などの血栓溶解薬や、鎮痛薬・抗血液凝固薬・抗不整脈薬などが用いられる。

2014年10月18日土曜日

抗不整脈薬

抗不整脈薬

① 不整脈とはどのような病気であるか、またその発生機序について述べよ
② torsades de pointesを説明せよ
③ 不整脈の原因の一つであるリエントリーの発生機序とそのサイクルを断ち切るためにどのような機序の薬が使われるか述べよ
④ 抗不整脈薬のVaughan Williamsによる分類と主な薬物について述べよ


① 不整脈とは・不整脈の発生機序


• 不整脈とは正常洞調律以外の心臓電気現象の異常の総称である。調律の異常や拍数の異常が起こり、頻脈には投薬治療を、徐脈には人工ペースメーカー治療が行われる。不整脈のなかでも心室細動は致死的である。不整脈は異所性刺激・自動能の異常などの刺激生成の異常や、洞房接合部・心筋細胞間などにおける伝導遅延やブロックなどの刺激伝導の異常によって引き起こされる。刺激生成異常にはtorsades de pointes(倒錯型心室頻拍)、刺激伝導異常にはリエントリーなどの重篤な症状になりうる異常もある。



② torsades de pointes

• torsades de pointesとは脱分極後の再分極の遅れにより、再分極過程から再び脱分極(早期脱分極)することで起こる倒錯型心室頻拍のことである。QT延長が原因となり、心室細動に移行して突然死へといたる可能性がある。Kチャネル拮抗薬などの重篤な副作用である。
*QT間隔とはAPD(活動電位持続時間)の平均的な長さのこと



③ リエントリーの発生機序とそのサイクルを断ち切るためにどのような機序の薬が使われるか

• 心筋の興奮は、洞房結節から心室筋細胞へと秩序だって伝導し消失するが、病的組織(伝導速度が異なる部位)があると、興奮の一部がもとに来た方向に引き返してしまう。すると、興奮が旋回する回路が生じ、本来は一度の興奮で何度も興奮が起こってしまい、結果、(頻脈性)不整脈になってしまう。このような状態をリエントリーと呼ぶ。心筋の不応期が短く、また伝導速度が遅いほどリエントリーのサイクルは安定する。このサイクルを断ち切るためには、不応期を延長させる薬(Na⁺チャネル拮抗薬・K⁺チャネル拮抗薬など)が有効である。薬としては、プロカインアミド・ジソピラミド・アミオダロンなどが挙げられる。



④ Vaughan Williamsによる分類と主な薬物

• クラスⅠはNaチャネル拮抗薬で、aタイプはAPDを延長し、伝導も抑制する。期外収縮などに用いられ、キニジン・プロカインアミド・ジソラピドがある。bタイプはAPDを短縮し、心室性不整脈に用いられる。リドカイン・メキシレチン・フェニトインがある。cタイプはAPDは不変で伝導抑制が強い。フレカイニドやピルジカイニドがある。クラスⅡはアドレナリンβ1受容体遮断薬で、交感神経亢進による不整脈に有効である。アセブトロールやアテノロールがある。クラスⅢはKチャネル拮抗薬でAPDと不応期を延長する。アミオダロンがあり、重篤な副作用があるため他の薬が無効な例に限り用いられる。クラスⅣはCaチャネル拮抗薬で、心筋の興奮を抑制する。ベラパミルがあるが、全てのCa拮抗薬が有効なわけではない。

2014年10月11日土曜日

高血圧症治療薬

高血圧症治療薬

① 高血圧症とはどのような病気であるか、また治療薬にはどのような種類があるか述べよ
② レニン‐アンジオテンシン系とそれに作用する薬について述べよ
③ 血管拡張薬について述べよ
④ 交感神経遮断薬について述べよ


高血圧症とは・高血圧症治療薬の分類
• 高血圧症は正常範囲以上の血圧が持続する状態であり、収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上が高血圧の目安になる。大部分は原因不明の本態性高血圧症であり、残りはストレスなどが原因である。末梢血管抵抗の増大が原因と考えられ、高血圧の長期持続により腎不全・心不全・脳梗塞などの危険性が増える。治療には薬物療法だけでなく減塩・肥満防止・運動などの生活習慣の改善が必要である。また、高血圧症治療薬には血管拡張薬・交感神経遮断薬・ACE阻害薬・アンジオテンシンⅡ受容体遮断薬・利尿薬がある。


② レニン‐アンジオテンシン系とそれに作用する薬
• 腎臓の傍糸球体細胞から分泌されたレニンにより、アンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンⅠが生成され、主に肺血管内皮細胞に存在するACEによってアンジオテンシンⅡへ転換される。アンジオテンシンⅡが受容体に結合すると、副腎皮質でのアルドステロンの合成・分泌が促進され、末梢血管が収縮し、腎集合管での再吸収を促進する。これによって体液量が増加する事により、昇圧作用をもたらし、さらに心肥大、血管内皮肥厚ももたらす。ACE阻害薬はアンジオテンシンⅡを抑制する。例として、カプトプリル・エナラプリル・テモカプリルがあり、空咳が主な副作用である。アンジオテンシン受容体遮断薬はアンジオテンシンⅡと拮抗し血管を拡張する。例として、ロサルタン・カンデサルタンがあり、空咳が少ない。


③ 血管拡張薬
• Ca拮抗薬は血管平滑筋のL型Caチャネルを阻害して、血管平滑筋を弛緩させ末梢抵抗を下げることにより血圧を下げる。ニフェジピン・ニカルジピンなどのジヒドロピリジン系・ジルチアゼム・ベラパミルがあり、ジルチアゼムとベラパミルは心機能を抑制する。頭痛やめまいなどの副作用がある。他の血管拡張薬としては、NOを放出して直接血管を拡張させるニトロプルシドや細動脈に直接作用し拡張させるヒドララジンがある。


④ 交感神経遮断薬
• α1アドレナリン受容体遮断薬にはプラゾシン・ブナゾシンがあり、抵抗血管を拡張させる。βアドレナリン受容体遮断薬にはプロプラノロール・ピンドロール・アテノロールがあり、心拍出量を減少・レニン分泌抑制などをもたらす。投薬中止によるリバウンドが起こることがある。また、α1とβ受容体遮断作用をもつラベタロールもある。中枢性α2アドレナリン受容体遮断薬にはクロニジン・αメチルドパがあり、交感神経活動を抑制し、末梢抵抗の低下と心拍出量を抑制をもたらす。他には、ノルアドレナリン遊離を抑制する神経伝達遮断薬のグアネチジンや、カテコラミンを枯渇させる神経伝達物質枯渇薬のレセルピンがある。

2014年10月4日土曜日

利尿薬

利尿薬


① 利尿薬の薬理作用と腎臓の機能・構造について述べよ
② 尿の生成過程について述べよ
③ ループ利尿薬とチアジド(サイアザイド)系利尿薬の作用部位・薬効の強さ・使い方の差異を述べよ
④ その他の利尿薬の作用部位・使い方について述べよ




① 利尿薬の薬理作用と腎臓の構造
• 利尿薬は尿量とともにNa⁺、Cl⁻の排泄を増加させる医薬品であり、浮腫や高血圧などの治療に用いられる。
• 腎臓は体内の水・電解質の恒常性を維持する重要な臓器で脊椎の両側に存在する。腎臓にはその構成単位であるネフロンが約1万個ある。ネフロンは尿細管と腎小体からなる。尿細管は近位尿細管・ヘンレループ・遠位尿細管からなり、腎小体は糸球体・ボーマン嚢から成り立っている。また、ネフロンは均一ではなく、腎内の存在位置によりその構造や機能が大きく異なっている。


② 尿の生成過程
• まず、糸球体で血液中の血球・蛋白・脂質以外の血液成分が糸球体濾過を受け150L/日の原尿が作られる。次に、尿細管で再吸収される。近位尿細管では、受動的再吸収によりアミノ酸・炭酸水素イオン・水を再吸収し、Na KポンプによりNa⁺・K⁺を再吸収し、炭酸脱水素酵素によりNa⁺を再吸収し血液や尿のpHを調節している。ヘンレループでは、周囲血管と対向流系をつくり、Na⁺‐K⁺‐2Cl⁻共輸送によりNa⁺とCl⁻を再吸収する。水は再吸収されない。遠位尿細管では、Na⁺ポンプ、炭酸脱水素酵素、アルドステロンによるNa⁺‐K⁺交換作用によりNa⁺を再吸収し、K⁺とH⁺の排泄を増加する。集合管では、抗利尿ホルモン(ADH、バゾプレシン)により水を再吸収する。


③ ループ利尿薬とチアジド(サイアザイド)系利尿薬の作用部位・薬効の強さ・使い方の差異
• ループ利尿薬はヘンレ上行脚のNa⁺‐K⁺‐2Cl⁻共輸送を阻害し、Na⁺とCl⁻の再吸収を抑制する。また、プロスタグランジン類を介し腎血流量を増加させる。強力な利尿作用を持つ。例として、フロセミド・ブメタニド・エタクリン酸などがあり、急性肺水腫やうっ血性心不全などに用いられる。低カリウム血症や聴覚障害などが主な副作用である。
• チアジド系利尿薬は遠位尿細管のNa⁺‐Cl⁻共輸送を阻害する。利尿作用はループ利尿薬より弱いが降圧作用が強いため高血圧症に対して用いられる。例として、ヒドロクロロチアジドやトリクロロチアジドなどがあり、抗カリウム血症や高脂血症などが主な副作用である。


④ その他の利尿薬の作用部位・使い方
• 炭酸脱水素酵素阻害薬は近位尿細管のH⁺‐Na⁺交換系を介するNa⁺の再吸収を抑制する。アセタゾラミドは尿をアルカリ性にし、浮腫や緑内障などに用いられる。鉱質コルチコイド受容体拮抗薬はカリウム保持性利尿薬で、遠位尿細管や集合管でアルドステロンの作用を抑制する。スピロノラクトンは高アルドステロン血症に効果があり、ループ利尿薬やチアジド系利尿薬と併用される。腎上皮Na⁺チャネル阻害薬もカリウム保持性利尿薬で、遠位尿細管や集合管のNa⁺チャネルを抑制する。トリアムテレンがあり、他の利尿薬と併用して低カリウム血症を予防する。浸透圧利尿薬は水の再吸収を抑制し浸透圧を上昇させる。マンニトール・イソソルビド・グリセリンがあり、腎不全予防や脳圧・眼圧亢進の治療に用いられる。