2014年12月13日土曜日

抗うつ薬

抗うつ薬


① うつ病の特徴と症状について説明せよ。
② 薬物療法以外のうつ病の治療法と素質-ストレス仮説について説明せよ。
③ うつ病の生物学的病因についての初期の主要な学説は「モノアミン」学説であった。「モノアミン仮説」が提唱された根拠を説明し、うつ病との関連が特に深いと思われるモノアミンを2つあげなさい。
④ 三環系抗うつ薬とセロトニン選択的取り込み阻害薬の薬理作用と副作用について類似点および相違点を明確にしながら説明しなさい。
⑤ その他の抗うつ薬と抗うつ薬の長期的効果について説明せよ。
⑥ 抗躁病薬について説明せよ。
⑦ セロトニンの生合成と代謝について説明せよ。
⑧ 縫線核について説明せよ。




① うつ病の特徴と症状

うつ病は気分障害の中で一番多く、憂うつ状態が続き、感情の落ち込みだけではなく、日常生活に支障をきたすような身体症状を伴うことが多い。主な症状として、睡眠障害、疲労感、無力感、自殺念慮などがみられる。うつ病にはほとんどがうつ状態のみの単極型と躁状態とうつ状態を繰り返し途中に正常な寛解期のある双極型があり、メランコリー親和型性格や執着型性格の人がうつ病に罹りやすい。病相は単純ではなく、明確な診断基準による分類と治療が必要とされる。女性の方が男性より罹患しやすく、老年者の発症率が高く自殺の原因となることがあり、休む勇気と休ませる気配りが必要となる。原因としては急激な環境変化によるストレスや遺伝的素因、セロトニン・ノルアドレナリン神経系やHPA系の異常、脳由来神経栄養因子(BDNF)の減少などが考えられ、予防にはストレスを貯めない、規則正しい生活、定期的な運動、ポジティブシンキングなどが効果的である。


② 薬物療法以外のうつ病の治療法と素質-ストレス仮説

うつ病の治療法には薬物療法以外には電気痙攣療法(ECT)、断眠療法、高照度光療法、認知行動療法がある。ECTは全身麻酔下で筋弛緩薬を併用し、頭部への通電により人工的に全身痙攣を誘発させる治療法で、重症や薬物抵抗性のうつ病にも効果がある。断眠療法は全断眠やレム断眠が有効だが、やめるとすぐに元に戻ってしまう。高照度光療法は強い光を照射することで、季節性感情障害などに効果がある。認知行動療法は日常生活の行動パターン、考え方、クセなどを改め気分を変える。軽症に有効である。素質-ストレス仮説は遺伝的な素因などにより素質のある人が、発達早期にストレスに暴露されることで、ストレス反応の感受性が増大し、軽いストレッサーに対しても過敏に反応してしまうことがうつ病の原因だとする仮説である。これはストレスに対する個人差を説明でき、HPA系の過剰活動や海馬からの負のフィードバックの崩壊が原因だと考えられている。



③ モノアミン仮説

モノアミン仮説は、うつ病はシナプス間隙のモノアミンであるノルアドレナリン,セロトニンが欠乏することで生じるという説である。ドパミンは無関係である。モノアミンを枯渇させるレセルピンで高血圧治療中にうつ状態になって自殺した例があることやα2受容体作用薬であるメチルドパによってうつ状態が現れること、また、抗うつ薬である三環系抗うつ薬やモノアミン取り込み阻害薬、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO阻害薬)が、モノアミンの間隙濃度を高めることが根拠とされる。問題点としては、抗うつ薬が薬理作用を発現するまで数週間かかることやセロトニン・ノルアドレナリン選択的取り込み阻害薬の奏功が70%であることを説明できないことが挙げられる。


④ 三環系抗うつ薬とセロトニン選択的取り込み阻害薬の薬理作用と副作用

イミプラミン・アミトリプチンなどの三環系抗うつ薬、パロキセチン・フルボキサミンなどの選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)ともに、脳内モノアミンの神経終末への再取り込みを阻害し、モノアミンのシナプス間隙濃度を高めることで抗うつ作用を発現する。三環系抗うつ薬は、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害する効果もあるが、SSRIはセロトニン神経終末に存在するセロトニントランスポーターに特異的に作用するため、セロトニンに対して選択的に取り込み阻害をかけるが、三環系よりやや弱い。副作用に関しては、三環系抗うつ薬はSSRI等と違って選択性が低いために多く、抗コリン作用による口渇,便秘,排尿障害、抗α1作用による低血圧、Na+チャネル抑制による心臓の伝導抑制,抗H1作用による眠気、などがある。他方、SSRIはアドレナリン受容体やアセチルコリン受容体との親和性が低く、副作用が少ないが、肝薬物代謝酵素CYPファミリーを阻害するため、併用する薬の代謝に注意を要する。


⑤ その他の抗うつ薬と抗うつ薬の長期的効果

抗うつ薬には三環系抗うつ薬、SSRIの他に四環系抗うつ薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、モノアミン酸化酵素阻害薬がある。四環系抗うつ薬は抗コリン作用が少ない。ノルアドレナリンの取り込みを阻害するマプロチリンやα2・5-HT2・H1受容体を遮断するミアンセリンなどがある。SNRIにはミルナシプランがあり、セロトニンとノルアドレナリントランスポーターに特異的に作用して再取り込みを阻害する。副作用が尐なく安全であり、効果の発現が速い。モノアミン酸化酵素阻害薬はセロトニン・ノルアドレナリンの酸化酵素であるMAOAを阻害して遊離量を増加させる薬であるが、副作用が多く使用されていない。抗うつ薬は、長期的には自己受容体の強いdown regulationを引き起こすことで結果的に神経伝達効果を短期使用時より上昇させる。また、脳由来神経栄養因子(BDNF)の増加や、海馬における神経新生の増加ももたらす。しかし、抗うつ薬で起こる変化が病気で起こる変化の逆とは限らない。


⑥ 抗躁病薬

躁病は気分爽快・意欲亢進・多弁などだけではなく、社会的逸脱行動や家庭内不適応などの症状があり治療対象となる。炭酸リチウムが治療に用いられる。健常者には作用がなく、躁状態を改善し、予防的効果もある。多くの生理作用を持つが、薬理作用の本体は不明で多くの仮説が提唱されている。振戦、消化器症状、腎機能障害、強調運動障害などの副作用があり、リチウム中毒を起こすこともある。抗けいれん薬のカルバマゼピンも躁病治療に有効である。



⑦ セロトニンの生合成と代謝

セロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン、5-HT)はインドールアルキルアミンであり、ヒトの生体内セロトニンは胃腸管に90%が、血小板に8~9%が、1~2%が松果体・脳神経に存在している。生体内では、トリプトファンがトリプトファン水酸化酵素により5-ヒドロキシトリプトファン(5-HTP)に変換され、さらに、5-HTP脱炭酸酵素によりセロトニンへと変換される。セロトニン生合成の律速段階はトリプトファン水酸化酵素であり、この酵素は酸素・基質・補酵素の量で調節され、最終産物によって調節されることはない。セロトニンの唯一の代謝経路はモノアミン酸化酵素(MAO)による脱アミノ反応である。


⑧ 縫線核

セロトニン神経系は縫線核から起始し、縫線核はセロトニン受容体の1種である5-HT1A受容体を持っている。この受容体は、アデニル酸シクラーゼ活性を抑制し、膜に過分極を起こさせることでシナプス伝達を抑制したり、自己受容体としてセロトニン神経活動を抑制したりする。

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