2014年12月6日土曜日

脂肪族アルコール

脂肪族アルコール


① アルコールの特徴とその体内動態について述べよ。
② アルコールの急性作用について述べよ。
③ アルコールの慢性作用とアルコール依存症の治療について述べよ。
④ 全身麻酔薬とエタノールの薬理作用(作用機序を含む)を比較せよ。




① アルコールの特徴と体内動態

アルコールは古来「酒」として親しまれ、両親媒性をもち医療用には消毒と溶媒として用いられる。GABAA受容体の亢進とNMDA受容体抑制により急性作用として中枢神経系を抑制する。また、慢性作用によりさまざまな障害を引き起こし、アルコール依存症は社会問題になっている。アルコールは消化管・咽頭粘膜・肺などからほぼ完全に吸収され、30分以内に血中濃度がピークに達する。主に肝臓でアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)によって酸化されアセトアルデヒドとなり、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)によって酢酸とアセチルCoAとなり、TCAサイクルで代謝される。ADH・ALDHには個人差・人種差が大きい。高濃度になるとMEOSやP-450などによっても代謝される。


② アルコールの急性作用

アルコールの急性作用の主なものとしてはGABAA受容体亢進とNMDA受容体抑制による中枢神経抑制作用である。抗不安・鎮静や認知・感覚・言語・運動機能の障害や判断力の低下・順行性記憶障害や利尿などを引き起こすが、これらには個人差がある。また、就眠は促進するが、睡眠後期でしばしば覚醒を引き起こすので睡眠薬には不適当である。循環器系への作用により末梢血管が拡張し、発赤・温感が起こる。消化器系の作用により最初は胃酸分泌を増加させる(食前酒)が、悪心・嘔吐を引き起こす。急性毒性には、呼吸抑制・血圧低下・体温低下などがある。


③ アルコールの慢性作用とアルコール依存症の治療

アルコールの慢性作用にはアルコール依存症があり、これはアルコールに対して身体的にも精神的にも依存する症状である。耐性を生じ、熟眠を困難にし、肝臓障害により脂肪変性・肝硬変を引き起こす。その他、消化管や循環器系に作用し、脳機能を低下させるなどさまざまな毒性をもたらす。アルコール依存症の治療には、ALDHの抑制によりアセトアルデヒドが蓄積することで、アルコールに対して非常に不快な副作用を起こす嫌酒薬を用いる。嫌酒薬にはジスルフィラムやシアナミドがあり、シアナミドの方がジスルフィラムよりALDHを特異的に阻害する。また、本人の自覚や家族と社会の支援も治療には重要である。


④ 全身麻酔薬とエタノールの薬理作用(作用機序を含む)の比較

全身麻酔薬は、主に抑制性GABAA受容体の作用増強ないし興奮性グルタミン酸受容体(とくにNMDA型)の抑制に起因する。アドレナリンα2受容体抑制、アセチルコリンニコチン受容体抑制,Kチャネル増強,Naチャネル抑制を介し作用を及ぼすものもある。中枢神経細胞の全身麻酔薬に対する作用は下行性に進行する。麻酔深度の第Ⅰ期は無痛覚期で、第Ⅱ期は興奮期である。第Ⅲ期は手術適応期であり、手術中はこの期の維持が必要となる。第Ⅳ期は延髄麻酔期で、呼吸停止・血圧低下・心停止し、死亡に至る。エタノールもGABAA受容体の亢進・NMDA受容体抑制・下行性に進行など作用機序はほぼ同一と考えられているが、中枢神経系の脱抑制による興奮期の持続が全身麻酔薬よりも長く、手術期へ移行するには血中エタノール濃度を相当上げなければならない。しかし、手術期から延髄麻痺に移行する期間は逆に全身麻酔薬より短く、速やかに呼吸機能・心拍機能を停止させて死に至らしめる(急性アルコール中毒)。このためエタノールは全身麻酔薬と作用は似ているが全身麻酔薬として用いるには適さない。

0 件のコメント:

コメントを投稿