2013年9月15日日曜日

アルツハイマー型認知症治療薬の比較検討

 新しい認知症治療薬の使い分けについて、古くから使われてきたドネペジルとの相違点や使い分けなどについてまとめた。

 本邦では1999年にドネペジル(アリセプト)が登場して以来12年間、アルツハイマー型認知症(AD)治療薬は1種類だけだったが、2011年になって新たに3剤が加わった。2011年3月にガランタミン(レミニール)、6月にメマンチン(メマリー)、7月にリバスチグミン皮膚貼布剤(イクセロンパッチ)が発売された。メマンチンは3月に薬価基準収載されたが、東日本大震災の影響で6月に発売が延期されたという経緯がある。AD治療薬の選択肢が4剤に増えたわけであるが、その使い分けについて作用機序、効果、副作用、利便性の観点から述べてみたい。
1)作用機序
 4剤は作用機序によって、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬であるドネペジル、ガランタミン、イクセロンパッチと、グルタミン酸受容体のひとつであるNMDA受容体の拮抗薬であるメマンチンに大きく2つに分類される。AChE阻害薬である3剤は、いずれもアセチルコリンの分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼを阻害することでシナプス間隙のアセチルコリン量を増やし、AD患者で機能低下しているアセチルコリン作動性神経を賦活する。ドネペジルはAChEに高い選択性を有する長時間作用型のAChE阻害薬である。ガランタミンはAChE阻害作用に加えて、allosteric potentiating ligand(APL)作用を併せ持ち、ニコチン性アセチルコリン受容体のアロステリック部位に結合して受容体の感受性を増加させる作用も有している。イクセロンパッチはAChE阻害作用の他に、ブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)阻害作用を併せ持つ。アセチルコリンはAChEの他にBuChEによっても分解されるが、BuChEはAD脳で増生したグリア細胞や老人斑で健常者の脳組織と比較して5~6倍の高い活性を有しており、BuChEを阻害することで、さらなるアセチルコリン量の増加が示唆される。MNDA拮抗薬であるメマンチンは、AD脳で生じているグルタミン酸によるNMDA受容体の過剰な活性化を抑制することで、神経保護作用を有するとともに、神経伝達におけるシグナル/ノイズ比を改善して認知機能障害を抑制する。
2)効果
 ドネペジルは治療開始半年~1年間は軽度ながら認知機能の改善を示す。その後は徐々に認知機能が低下してゆくが、自然経過に比べてその進行はゆっくりである。日常生活動作の低下も抑制し、施設入所までの期間を2年弱遅らせることができる。しかしながら、これは多くのAD患者の平均であって、すべてのAD患者が同様の反応を示すわけではない。顕著な改善を示し、その改善が長期間にわたって維持できている患者がいる一方で、規則的に服薬しているにもかかわらず、自然経過と変わりがないのではないかと思われるほど進行してゆく患者もいる。進行を完全にストップできる薬ではないので、実際の診療場面で個々の患者についてみると、薬の有する進行抑制効果をなかなか実感できない例も多い。新たに登場してきた3つの認知症治療薬ともドネペジルと効果に大きな相違はない。進行抑制効果を有しているが、進行を完全に止めることは期待できず、効果には個人差が大きいという限界がある点も同様である。
 適応となる重症度は各薬剤に違いがあり、ドネペジルが軽度~高度AD、ガランタミンが軽度~中等度AD、イクセロンパッチが軽度~中等度AD、メマンチンは中等度~高度ADである。ガランタミンは中等度ADについてみると、長期間の進行抑制効果がドネペジルより若干優れていたという報告があるが、ガランタミンを発売しているヤンセンファーマがスポンサーの研究なので、進行抑制効果の差の有無については今後の更なる研究が必要と思われる。
 メマンチンは認知機能の進行抑制効果のほかに、興奮・攻撃性、易刺激性、夜間の行動異常などの行動障害の治療や予防に効果があることが示されている。家族が介護をしてゆくうえで大きな負担となる、いわゆる問題行動の改善に役立つ可能性があり期待される。ドネペジル、ガランタミン、イクセロンパッチはAChE阻害薬という同種薬剤のため互いに併用できないが、1つのAChE阻害薬で効果の不十分な患者が他のAChE阻害薬への切り替えによって効果を示す場合もある。NMDA拮抗薬であるメマンチンはAChE阻害薬との併用が可能である。中等度~高度AD患者にドネペジルとメマンチンを併用するとドネペジル単独よりも認知機能の悪化を抑制できたという報告があり、AChE阻害薬にメマンチンを併用することでより強い進行抑制効果が期待できる。またドネペジルとイクセロンはADだけでなく、レビー小体型認知症(DLB)に対しても有効性が指摘されている。
3)副作用
 下痢、悪心・嘔吐、食欲不振といった消化器系の副作用と頭痛やめまいは、ドネペジル、ガランタミン、イクセロンのAChE阻害薬3剤に共通したもっとも多い副作用である。20人~ 30人に一人くらいの頻度でみられるが、少量から漸増することで発現頻度が減少する。イクセロン経口薬はすでに世界各国で発売されているが、消化器系副作用が多いという欠点があった。イクセロンパッチは経皮吸収とすることで血中濃度上昇が緩やかとなり、消化器系副作用の頻度がドネペジルやガランタミンに比べて少ない。貼布部位の接触性皮膚炎には、貼る場所を変えるなどの対策が必要である。メマンチンはめまい、便秘、頭痛といった副作用がある。ドネペジルは意欲や自発性の改善作用がある反面、多動、易刺激性や興奮、攻撃的行動などが増悪することを稀に経験する。同じAChE阻害薬でもガランタミンはこのような異常行動を悪化させないようである。
4)利便性
 ①剤形:ドネペジルは錠剤、D錠、細粒、はちみつレモン味の内服ゼリーの4剤形、ガランタミンは、錠剤、OD錠、内用液の3剤形が選択でき、錠剤だと吐き出してしまう認知症患者には便利である。メマンチンは今のところ錠剤しかない。イクセロンパッチは背中、上腕、胸部などの皮膚にパッチを貼付する。パッチ剤は服薬拒否や嚥下障害などで服薬困難な患者に便利なだけでなく、パッチに日付を入れることで、飲み忘れや重複投与を予防でき、介護者による服薬管理の負担軽減が期待される。
 ②投与回数:ドネペジル、メマンチン、イクセロンパッチは1日1回投与であるが、ガランタミンは半減期が短いため1日2回の投与が必要である。
 ③維持量までの期間:ドネペジルは1日3㎎から開始して1~2週間後に軽度~中等度ADの維持量である1日5㎎に増量するため、2回の受診で維持量に持ってゆくことができる。高度ADの場合はさらに4週間以上経過後に1日10㎎に増量する。ガランタミンは1日8㎎から開始して4週間後に維持量である一日16㎎に増量するので、ドネペジルと同様、2回の受診で維持量に持ってゆくことができる。効果が不十分な場合には、さらに4週間後に1日24㎎まで増量する。メマンチンは1日5㎎から開始し、1週間おきに5㎎ずつ1日20㎎の維持量まで増量する。増量のたびに受診してもらうとすると、維持量まで4回の受診が必要だが、4週目から維持量に持ってゆくことができる。イクセロンパッチは1日4.5㎎から開始し、4週間おきに4.5㎎ずつ維持量の1日18㎎まで増量する。やはり維持量まで4回の受診が必要で、初診からようやく13週目で維持量に達する。
 ④薬物相互作用:高齢者では多種類の薬を服用していることが多いため、薬物相互作用には十分注意を払う必要がある。ドネペジルとガランタミンは主としてCYP3A4、CYP2D6により代謝されるため、これらのCYPを阻害するワーファリン、Ca拮抗剤、高脂血症治療薬、PPI、β遮断薬、パロキセチンなどの薬剤を使用している場合には相互作用に注意が必要である。イクセロンとメマンチンは腎排泄性のためCYPを阻害する薬剤と併用してもほとんど影響を受けない。
 ⑤薬価:維持量で比較すると、アリセプトD錠5㎎が427.5円、レミニール OD 錠8㎎×2回で427.6円、メマリー 20㎎錠427.5円、イクセロンパッチ18㎎427.5円/枚で、4剤とも同じ価格に設定されている。しかし高度ADになってアリセプトD錠10㎎(764.0円)にメマリー 20㎎を併用しようとする場合には、1日薬価は1,191.5円かかる計算となり、患者負担が1割あるいは3割としても決して安価な薬ではない。

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