2013年9月2日月曜日

Biguanides suppress hepatic glucagon signalling by decreasing production of cyclic AMP.

Biguanides suppress hepatic glucagon signalling by decreasing production of cyclic AMP.

Miller RA, Chu Q, Xie J, Foretz M, Viollet B, Birnbaum MJ.

Nature. 2013 Feb 14;494(7436):256-60.

【まとめ】
ビグアナイド系薬剤は50年前から肝の糖産生を抑制する有効な治療薬と考えられてきたが、その作用機序は詳しくは不明である。MetforminがAMPK活性化を介して肝糖産生を抑制するという作用機序は10年前より提唱されてきたが、近年メトフォルミンがLKB1/AMPK経路とは独立して肝糖産生を抑制することが示されて、前者の機序は疑問視もされている。本研究では、「メトフォルミンが、肝においてグルカゴン作用を阻害することにより空腹時血糖を低下させる」という新しいメカニズムを報告している。マウス肝細胞にmetforminを添加すると、ミトコンドリア呼吸鎖の抑制によってAMPが蓄積する。(それがAMPKを活性化すると考えられているのだが)ここではそれがadenylate cyclaseを抑制し、その結果cAMP産生が減少、PKA活性が低下する。PKAの標的蛋白には肝糖産生酵素があり、不活性化によって、グルカゴン依存性の肝糖放出が抑制されるという機序が示された。抗糖尿病薬metforminは、肝におけるグルカゴンアンタゴニストとしての新たな作用機序をもつことが明らかになった。

【論文内容】
10年ほど前から、metforminの作用はAMPKを介すると考えられてきたが、最近AMPKまたはその上流のLKB1を欠損した肝臓や肝細胞でもmetforminの効果が見られることが報告され、当初の考えは疑問視もされている。そこで、メトフォルミンが肝でのグルカゴンシグナル伝達を阻害する可能性を考えて検討を進めた。

グルカゴンが肝細胞表面の受容体に結合すると、adenylate cyclaseが活性化、cAMPが増加、PKAが活性化され、肝の糖産生を増加させる蛋白をリン酸化(活性化)する。ビグアナイドであるphenforminまたはmetforminをマウス培養肝細胞に2時間または24時間添加すると、用量依存的にグルカゴンによるcAMP増加が低下した。次にアデノウイルスを用いてAKRA3 FRET reporterを発現させた肝細胞(PKA活性化を確認する細胞)に、まずグルカゴンを添加したところ、2分以内に最大のFRET増加(PKA活性化)を認めたが、phenforminはこの増加を遅延させた。さらに、phenforminは、グルカゴン刺激によるPKA基質蛋白(PFKFB1、IP3R)のリン酸化を阻害した。このように、グルカゴンはcAMP増加によりPKAを活性化しその基質蛋白のリン酸化を増加させ、phenforminはこの過程を阻害したが、グルカゴンの代わりに膜透過性cAMPアナログ(SP-8Br-cAMPS-AM)を添加した場合はphenforminでPKA活性化は阻害されなかった。したがって、phenforminはPKA活性化よりも上流でグルカゴンシグナル伝達経路を遮断していると考えられた。同じく、肝細胞に治療域濃度のmetforminを添加した場合、グルカゴンによる糖産生の増加は抑制したが、SP-8Br-cAMPS-AMによる増加は抑制できず、metforminの糖産生抑制作用はcAMP減少を介していると考えられた。

次に、AMPKのα1とα2のfloxedマウスにCreを発現させるアデノウイルスを注入し、AMPKのcatalytic(α)サブユニットを欠損させたマウスを作製した。このマウスの(AMPK欠損)肝細胞にphenforminを添加しても、グルカゴンによるcAMP増加の抑制はコントロールと同じように起こった。すなわち、ビグアナイドによるcAMP増加抑制効果はAMPK非依存性であることが分かる。

では、ビグアナイドがグルカゴンによるcAMP増加を抑制するのは、ビグアナイドがcAMP phosphodiesterase (PDE)を活性化するためであろうか?グルカゴンを添加した肝細胞にIBMX(PDEの非特異的阻害剤)またはRo-20-1724(PDE4の特異的阻害剤)を添加したところ、cAMPは増加した。この効果はcilostamide (PDE3の特異的阻害剤)では見られなかったので、これらの細胞でのcAMPの分解にはPDE4が重要であることが分かる。しかし、phenformin添加によるcAMP増加抑制に、IBMXやRo-20-1724は影響しなかった一方、forskolin(adenylate cyclaseを活性化させてcAMP増加を起こす)によるcAMP増加は、phenforminで阻害された。すなわち、phenforminは、cAMP分解促進(PDE4活性化)ではなく、cAMP増加抑制(adenylate cyclase活性化抑制)によって、cAMP量を低下させていると考えられた。

AMPはadenylate cyclaseを抑制することが古くから報告されてきたが、ビグアナイドによるAMP増加がadenylate cyclase抑制をもたらしているのだろうか?Metformin投与マウスの肝におけるAMP濃度がadenylate cyclaseを阻害するのに十分なレベルかを検討するため、肝のAMP値を測定した。その結果、肝のAMP濃度は2.3 mM、metformin投与後は2.9 mMと高かった。培養肝細胞でのAMPの濃度は215 μMで、phenformin添加によって1 mM以上に増加した。

次にin vivoで、metforminのグルカゴン注入に対する効果を検討した。Metforminを事前に投与しておいたマウスでは、グルカゴン急速注入による血糖上昇は抑制された。この時、metformin投与により肝のエネルギー蓄積が減少して(=AMPが増加して)AMPK活性が増加したが、重要なことは、metformin前投与でグルカゴンによる肝臓内cAMPの上昇、PKA活性化、PKA基質のリン酸化が抑制されたことである。空腹時マウス(内因性のグルカゴン上昇)にmetforminを投与しても、肝のcAMP濃度が減少した。高脂肪食負荷マウスにmetforminを投与しても、肝のAMP増加、それに伴うPKA標的蛋白であるPFKFB1とIP3Rのリン酸化が低下し、空腹時血糖が低下した。このような急性投与によりAMPKリン酸化(活性化)が認められたものの、Aktリン酸化の変化(急性のインスリン抵抗性改善)までは見られなかった(metformin投与→AMP増加→AMPK活性化によるインスリン抵抗性改善は、少なくとも急性には起こっていないことを示唆する)。

【結論】
本研究では、ビグアナイド系薬剤が肝細胞においてcAMPを減少させる効果があることを確認した。治療域濃度のmetforminは、肝細胞においてミトコンドリア呼吸鎖のcomplex Iを阻害してATPの減少とAMPの増加をもたらすことにより、グルカゴンによるadenylate cyclase活性化を阻害する(AMPは内因性リガンドとして、adenylate cyclaseの活性化を直接抑制する作用があることは古くから知られている)。Adenylate cyclase活性低下により、細胞内cAMPが減少し、PKA活性化低下が起き、糖産生酵素の活性化を減少させ、肝糖産生を抑制する。このような経路(下の参考図)が新たなmetforminの作用機序と考えられる。



(参考図)Metforminまたはphenforminは、OCT1(organic cation transporter)によって細胞内に取り込まれ、ミトコンドリアに集積して呼吸鎖のcomplex Iを抑制し、細胞内のATPを減少させADP/AMPを増加させる。増加したAMPは、AMPKを活性化させるのみならず、adenylate cyclaseを直接阻害して、グルカゴンによるcAMP増加を抑制、その結果PKA活性化が抑制される。それにより、グルカゴンによる糖新生酵素が糖新生抑制に働き、肝糖産生が抑制されることになる。

0 件のコメント:

コメントを投稿